「もしかしてお母さんと先生は肝試ししないの?」
「わたし達は審判よ。じゃないとどっちのチームが先に戻って来るか分かんないでしょ」
「でも先生は人魚に会うってあんなに張り切ってたのに?」
不思議に思って聞けば、木綿先生は悲しげに眉を下げた。
「それが僕もそのつもりでしたが、先ほど風花さんと一緒に空から森を見下ろした際には、それらしい姿は見当たらなかったんですよね……」
「うーん、そうなんですか……」
やっぱり迷信はあくまで迷信ってことなんだろうか。
シュンとする木綿先生だが、しかしそれ以上にその話を聞いていた雨美くんがガッカリとした表情をして呟いた。
「そっかぁ、居ないんだ。人魚に一度は会ってみたかったのになぁ」
「雨美は人魚一族との付き合いはないのか? 蛟一族と人魚一族は遠い親戚関係と聞いたことがあるが……」
「へぇ、そうなの? 雨美くん」
私が目を丸くして言うと、雨美くんが頷く。
「うん。蛟一族と人魚一族が遠い親戚なのは確かだよ。でも残念だけど、ボク達一族が陸で生きる選択をした頃からずっと疎遠なんだ……」
「そっか。人魚一族はかなり内向的だって言うもんね」
同じ水棲の妖怪であるにも関わらず一切の交流がないとは、いかに人魚一族が排他的であるかが伺える。
「まぁまぁ、雨美くん」
と、そこで落胆して肩を落とす雨美くんに対し、またもお母さんが励ましの言葉を掛けた。
「そんなにガッカリしないで。じゃあそうねぇ。話のついでに、海神にまつわるもう一つの言い伝えを教えてあげるわ」
「え? もう一つの言い伝え……?」
そんなものあっただろうか? 頭を捻るが、私にはなんの心当たりもない。
「〝海神の姿を見た者は一つだけ、なんでも願いが叶う〟……ですって」
「海神の……?」
これまた抽象的な話に、みんなが互いの顔を見合わせた。
「え、でも海神様って深い海底に住んでるんだよね? 姿なんてどうやって見れるんだろう?」
「その前にその話って信憑性があるんですか?」
「さぁ? あくまで言い伝えなんだもの。試そうと思って試せるものでもないし。でも夢があっていいじゃない? それよりほら、みんな元気が出てきたところで、そろそろクジ引きを始めるわよ」
「あ、うん」