「肝試ししようぜ(よ)!」


 それはコンテストを終えた日の夜のことだった。

 いつものみんなでとる賑やかな夕食の席で、突然雨美くんと夜鳥くんがウキウキと言い出したのだ。


「――え? 肝試し?」

「そうそう、あの何とかの森ってとこでさ」

「ああ、ザンの森ね」

「お、それそれ」

「今夜その森でやろーよ」


 浮かれた様子で話す二人に、みんなが食事の手を止めて彼らに注目する。


「?〝ザンの森〟ってなんですか?」


 お茶碗を手に持ったまま、朱音ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
 そういえば魚釣りの時に朱音ちゃんは別行動だったんだっけ。


「我が家の裏にある砂浜の海岸近くに浮かんでいる小島をそう呼ぶのよ。昔からザン……つまり人魚が流れ着く場所とも言い伝えられているわね」

「人魚が流れ着く場所……ですか。ほほう、それはまた興味深い言い伝えですねぇ」


 相変わらずガバガバと際限なく泡盛を飲みながら、お母さんがザンの森について語る。
 そしてそのお母さんにお酌をしながら、木綿先生が相槌を打った。


「まぁ最近はあの鬱蒼(うっそう)とした雰囲気が不気味で面白いとかで、若者が肝試しする遊び場になっちゃってるけどね。雨美くん達もどっかでその話を聞いたのかしら?」

「はい。この前釣りをした時に、釣り人が言ってたんです」

「それで今夜肝試しですか」

「うーん、肝試しかぁー。怖そうだけど、ちょっとやってみたいかも」

「え」


 朱音ちゃんがそう言いながらフワフワと笑うのを見て、私は危機感を覚えた。
 思わず持っていた箸を握り締めて叫ぶ。