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「いらっしゃいませ、九条様」
「空いてるよね?」
「もちろんでございます」
そんな私の百面相を華麗にスルーした九条くんは、学食の受付の人に何やら金色のカードを見せていた。あのカード……噂だけは聞いたことがある。この高校に通う皇族や貴族のご子息だけが持っているという、いわゆる〝貴賓室〟への入場パスだ。
なるほど。確かに先ほどの授業のように普通に学食で食べていればまた大騒ぎとなるだろうし、貴賓室で落ち着いてごはんが食べたいというところだろうか。
しかしながらカードも貴賓室も、私には一生縁のないものと興味を抱いたことすらなかったが、まさかそんな自分が天敵の妖狐と貴賓室でお昼ごはんを食べることになろうとは。正直好奇心はくすぐられるが、それと引き換えにとんでもないものを失った気がする。はぁ……。
「本日はご利用ありがとうございます、九条様」
学食を2階に上がると、案内役だというウェイターさんに深々と頭を下げられ、ひときわ目を引く重厚な扉が開かれる。
「わぁ……!」
するとなんとまぁ、豪華な装飾の煌びやかな広間が目の前に現れた。
床は赤い絨毯張り、そして広間の壁には、等間隔になにやら花の彫りものが施された上等な扉がズラリと並んでいる。
先ほどの学食内の混み合いが嘘のように、この場所は落ち着いた静寂に包まれていた。
「曼珠沙華のお部屋でございますね」
はしたないがつい珍しいので、周囲をキョロキョロと見回していると、ウェイターさんが九条くんに何事か話しているのが聞こえた。
一瞬なんのこと? と思ったが、曼殊沙華は九条家の家紋となっている花であったことに思い至る。〝曼珠沙華〟〝富貴花〟〝鬼石菖〟……。どうやら壁に並んだ扉の花の彫り物は、部屋ごとに貴族たちの家紋の花が掘られているみたいだ。
てっきりこの広間で食べるのかと思ったが、専用の部屋がちゃんとあるのね。やっぱ貴族って、庶民とはスケールが違うなぁ。
