「何なの、かき氷を時間内に多く食べた方が勝ちって!? これじゃあミスコンじゃなくて、早食い競走じゃない!!」
「え? だから早食い競走だけど?」
「ん?」
「だからかき氷早食い競走だけど?」
「…………は??」
「だからかき氷早食いコンテスト!」
「…………」
なん……だと……?
頭の中を〝いつからミスコンと錯覚していた?〟という言葉が乱舞する。
キョトンとするお母さんを見つめて、私も目が点になった。
「……やっぱりアンタ、今の今までミスコンだと思ってたんだな」
隣の席に座るカイリちゃんが呆れたように言う。
「いや……だって、水着で来いとか言うから……」
「だってぇ、せっかくビーチでやるのよ? その方が雰囲気出るじゃなーい!」
「ふ、雰囲気……?」
え、まさかの本気で勘違い……?
そういえば確かに、お母さんの口からミスコンだと言われたことは一度も無かったような……?
「…………うぁぁ」
驚愕の事実に、愕然と顔を手で覆う。
そんな私の肩をお母さんがポンと叩いた。
「ま、元気出しなさいよ。アンタかき氷好きじゃない」
「そりゃ好きだけど……」
そういう問題じゃないと思うんだが。
「ほらっ、とにかくさっさと始めるわよ! さっきも言ったように、時間押してるんだから!」
「うう……」
急かされて、仕方なくスプーンを手に持つ。すると「あっ!」とお母さんが声を上げて、小さなプラカードを渡してきた。
「そうそう、大事なものを渡すの忘れてたわ」
「? 何コレ? 〝ヘルプ〟??」
「そのカードは〝ヘルプカード〟よ。かき氷を食べるのが苦しくなった時に一回だけ、観客の中から助っ人を指名出来るの」
「へぇー」
なるほど。つまり一人でこの量を食べなくても、ちょうどいいところで助っ人にパスするのもアリってことか。
それによくよく考えてみれば、雪女である私とかき氷の早食いは相性がいいのではないだろうか?
なんてったって冷たいことは得意中の得意である。ぶっちゃけミスコンよりも勝ち目はあるかも知れない。
そう思えば、俄然ヤル気も湧いてきた。
気持ちを切り替えて、私はかき氷の山を見る。
「さぁ、両選手共に準備はいいわね? それじゃあ観客のみんなで、スタートのカウントをするわよーーっ!!」
言ってお母さんが観客席に向かってマイクを向けた。
「さーん! にー!」
それに観客達が楽しそうにカウントを始める。
「いーち!」
私はスプーンを握りしめて、ゴクリとその時を待った。
「――スタート!!」
ミスコンと思いきや、まさかの早食い競走だったコンテスト。
正直まだ頭が混乱しているが、しかし戦いの火蓋が切って落とされた以上、もうやるしか無い。
私とカイリちゃんは観客のスタートと同時に、一斉にかき氷を食べ始めたのだった。