「陛下」
「ヤダ」
子供のように駄々をこねる陛下に、宰相さんが苛立った様子で溜息をつく。
「なんですか、そんな若いお嬢さんを愛人にでもなさるおつもりですか? 日ノ本帝国は一夫一婦ですよ」
「抜かせ! 私は妻一筋だ!」
「左様ですか」
シレッと言う宰相さんに、今度は陛下が溜息をついた。
「はーー……。いい、分かった。お前は頭が固いからな、言っても無駄か」
「お分かり頂けたのなら、何よりです」
陛下が項垂れながらも、渋々と立ち上がる。
もしかして今のやり取りから察するに、力関係は宰相さんの方が上なのだろうか?
なんとなく陛下の様子をそのまま見ていると、パチリと目が合った。
そして私を見て笑みを浮かべたかと思うと、何故か陛下はグシャグシャと私の頭をかき回すようにして、豪快に撫でてくる。
「わわっ!?」
「ここには連れの彼が目覚めるまでいるといい。私から警備の者には伝えておく。……ではな、まふゆ。ひと時でも会えて嬉しかったぞ」
「え……あ……」
そう言い残して、陛下と宰相さんが静かに貴賓室を出て行く。
結局九条くんの病気に関することは聞きそびれてしまったが、またもや不思議なことを言われた。
『……ではな、まふゆ。ひと時でも会えて嬉しかったぞ』
なんで皇帝陛下が私の名前を?
しかもその口振りは、まるで陛下が私のことを元から知っていたかのようだ。
もちろんティダ育ちで超庶民の私に、皇帝と知り合うような機会はない。
では、一体何故――?
「う……」
「っ!? あっ、九条くん!! 気がついた!?」
「ぁ……ま、ふゆ……?」
考えるのを中断して、急いで私は目覚めた九条くんに声を掛ける。
そしてそうこうしている内に、頭にいくつも浮かんでいた疑問は、すっかり頭の隅へと追いやられてしまったのだった。
