◇
――――が。
「あの……、ここは本当に医務室なんですか……?」
警備員さんに案内された医務室? を見て、私は目を瞬かせる。
と言うのも、連れて来られたのは何やら絢爛豪華な調度品や装飾が目を引く、だだっ広い部屋だったのだ。
まかり間違っても、医務室として使用されるような部屋には見えないのだが……。
私は目の前に立つ九条くんを肩に担いだ人物を訝しく思い見上げる。
――すると、
「無論、医務室ではない。ここはかつてティダの地を支配した王族が、貴賓をもてなす為に使用していた貴賓室だ。そして現在も貴賓が訪れた際には、この部屋が使用されている」
「は……?」
き、貴賓室だって?? じゃあなんだって、そんなところに私達を……?
ていうかこの人、さっきと話し方や雰囲気が全然違うような……?
私の怪訝な視線を意に返さず、警備員さん(?)は九条くんを部屋の真ん中に鎮座するベッドのように大きくてフカフカのソファへと寝かせた。
そしてそのまま流れるような仕草で頭の制帽を取り去り、ゆっくりと私の方へと振り返る。
「すまんな、ちょうど良い部屋が貴賓室しか思いつかなくてな」
「――――……」
目の前の人物の意思が強そうな、まるで吸い込まれそうに深い、真っ黒な瞳。
その目は、顔は、忘れもしない、先ほどの――。
「こ、皇帝陛下っっ!!?」
思わず指を差して叫んでから、ヤバッと慌てる。しかし皇帝陛下はそんな私の失態を気にした様子もなく、鷹揚に笑った。
「ははは! この場には私しかいないのだ、そう固くならなくてよい。それより早く彼の発作を鎮めてあげるといい」
「…………えっと」
固くなるなと皇帝陛下に言われて本当に緩むヤツなんて、この世にいるのだろうか??
少なくとも私には絶対ムリである。
そもそも何故陛下が警備員の格好をしているのか。何故付き人も護衛もおらず、一人で城内にいたのか。
疑問は山ほどあるが、特に今の陛下の言葉がおかしかった。
『それより早く彼の発作を鎮めてあげるといい』
どうして私が九条くんの発作を鎮められると知っている……?
皇帝相手に不敬は承知だが、私は警戒心を露わにして陛下を見つめた。