「九条くんっ……!!」

「……っ、……ぅ……」


 慌てて受け止めた体はぐったりとしていて、まるで燃えるように熱い。まさか発作を起こしたの!?
 最近は朝晩2回発作が起きる状態が良くも悪くも安定してたから、すっかり油断していた。


「……ん? おい雪守、九条様どうしたんだ?」

「熱中症にでもなられたのかな?」

「まふゆちゃん、とにかく神琴(みこと)様をどこか休めるところへ!」


 私達の前を歩いていたみんなも九条くんの異変に気づいたようで、朱音ちゃんが駆け寄って来て私に言う。


「うん、分かった!」


 確かにこんな衆人環境じゃあ、私も妖力を使えない。どこか人目のつかない場所を探さないと……!

 そう考え、周囲を見渡した時だった――。


「もし、お客様」

「はい?」


 不意に背後から誰かに声を掛けられ、それに返事をして振り返れば、制帽(せいぼう)を目深に被った警備員さんが一人立っている。


「お連れ様の体調が優れないのでしたら、医務室までご案内致しますので、どうぞこちらへ」

「えっ……! 本当ですか!? ありがとうございますっ!!」


 医務室なんてあったんだ! 有難い申し出に、二つ返事でお礼を言う。
 すると警備員さんは私から九条くんの体を受け取り、その肩を担いで「では行きましょう」と私に声を掛けた。


「あ、んじゃあオレ達も一緒に……」

「いえ、わたし達はこのままお城の見学を続けましょう。まふゆちゃんは神琴様のこと、お願いね」


 夜鳥くんにそう言って、朱音ちゃんが私に目配せしてくる。
 ありがとう、助かるよ。


「は? なんでだよ!? 九条様放って、のんびり見学なんて出来るかって! オレ達も一緒に――」

「夜鳥さん、また〝ハウス〟されたいんですか?」

「いや、なんでそうなるんだよ!?」


 黒い笑みを見せる朱音ちゃんに、夜鳥くんが慌てたように叫ぶ。
 すると二人の会話を聞いていた雨美くんが、不思議そうに首を傾げた。


「え、何なに? なんなの〝ハウス〟って??」

「だぁーっ!! 水輝(みずき)は知らなくていいんだよ!!」

「なんだよ、気になるじゃんかぁ!!」

「やれやれ……」


 ハウスを巡って言い争いを始めた二人に呆れるが、これはさっさと医務室に向かうチャンスである。
 朱音ちゃんに小さく「ありがとう」と言って、私は警備員さんの後を着いて医務室へと向かったのだ。