「九条くん達貴族でも、皇帝陛下には会ったことが無いの?」
「成年貴族はともかく、未成年のボクらはまだまだ謁見する機会なんかないんだよね」
「そうそう」
「俺の場合はそもそも社交界には滅多に顔を出していない上に、当主の葛の葉があの調子だしね」
「あ……」
そう言えば木綿先生の話によると、九条家当主と皇帝陛下には何やら浅からぬ因縁があるんだっけ?
心配になって九条くんを見上げると、私の視線に気づいて頭を撫でられる。
「俺は大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「う、うん……」
視線ひとつで私の考えていることが伝わってしまうのは、なんだか面映ゆい。
つい目を逸らすと、突然周囲が騒がしくなり、誰かの「皇帝陛下だ!」という叫びが聞こえた。
「えっ、マジで皇帝陛下!?」
「警備員さんが言ってた時間より少し早くない!?」
「ていうかどこどこ!? 人が多過ぎて、全然見えないんだけど!?」
「わっ、わわっ!?」
皇帝陛下を一目でも間近で見ようと、ぎゅうぎゅうと群衆が前にせり出して、おしくらまんじゅう状態になる。ウゲッ、息が出来ない!
「……ふゆ!」
「…………ちゃん!」
「えっ、みんな!?」
しかもみんなの声が微かに聞こえるが、姿は人波に紛れてすっかり見えなくなってしまった。慌てて探そうとキョロキョロ視線を動かすが、見つからない。
――その時だった。
「――――――!」
人波の隙間から覗く目の前を歩く人物に、ハッと息が止まる。
黄色い装束をまとい、結い上げた黒髪の上に烏帽子を被っている壮年の男性。
瞬時にこの人こそが、皇帝陛下なのだと悟る。
陛下のまとう空気はどこまでも清廉で、彼の一挙手一投足に騒がしかった歓声が潮を引いたようにして静まり返った。
そして歩を進める度に自然と人々が頭を垂れていく。
皇帝陛下をぼうっと見ていた私も、みんなに倣って慌てて頭を下げようと陛下から視線を外すが、
「――――っ」
目線を下げる一瞬の間、ふと陛下の吸い込まれそうな黒い瞳と視線がカチ合った――ような気がした。
