◇


『俺、体調さえ良ければ毎日ちゃんと教室で授業を受けたかったんだよね。だから念願叶ったのは、雪守さんのお蔭。本当にありがとう』

『う、うん。どういたしまして。そういえば今まで勉強ってどうしてたの? 授業に出てないのに、よく着いていけてたよね』


 本当に嬉しそうにお礼を言う九条くん。
 それになんともむず痒い気持ちになりながらも、私は気になっていたことを聞いた。

 なにせうちの高校はかなり授業の進行が早いし、出席皆勤賞の私でも着いて行くのが大変だった。なのに九条くんは授業に出ずに学年1位まで取っている。何か特別な勉強法でもあるのだろうか?


『ああ、それは先生方から課題をもらって、体調が比較的マシな時にそれらをこなしていたからかな? 授業に出れない本当の理由を話せない分、実力を示さないと周囲を納得させられないし。毎回テストはかなり気合い入れてた』

『ふーん……』


 私だって毎回テストはかなり気合いを入れてる。それはもう、めちゃくちゃ。
 なのにただの一度だって私は九条くんに勝てた試しがない。周囲を納得させる為というのも事実だろうが、それ以上に九条くんは相当な負けず嫌いと見た。


 ◇


 ――カリカリカリ

 隣の席からまた、板書を写す音がする。熱心に授業に聞き入る姿から、授業に出たかったと言うのは本当なのだろうと思った。
 この桃色ピンクな空間は全く慣れない。しかしこれからも九条くんが授業に出るのなら、こういった状況は日常茶飯事になる訳だし、こんなことを言い訳に成績を落とす訳にはいかない。目標はでっかく! 打倒、九条神琴である!!


「……よしっ!」


 目標も定まったところで、気合いを入れ直す。
 そして私も九条くんに負けじと授業に聞き入る内に、いつの間にか周りの声は聞こえなくなっていった。