「はー、楽しかったねぇ! わたしたちが絵付けした獅子の置き物。木綿先生、喜んでくれるかなぁ?」

「もちろん喜ぶよ! 朱音ちゃんのは芸術的だし、九条くんのはお手本みたいだし! ……私と夜鳥くんと雨美くんのは分かんないけど」


 工芸体験を終えてお城に向かう道すがら。
 眉毛が繋がってたり、たらこ唇だったりと、散々な出来だった獅子を思い浮かべて、私は遠い目をして呟く。


「何言ってんだよ! 太眉にたらこ唇の獅子なんてどこにも売ってねぇレアものじゃねーか! 喜ぶに決まってんだろっ!」

「そうそう! なんてたって他でもない、可愛い教え子の作品なんだからね! 泣いて喜ぶに違いないよっ!」

「えぇ……」


 その自信はどこから湧いてくるのか?
 二人のポジティブさだけは、逆に尊敬する。


「つーか、繁華街を抜けてからひたすら坂を登ってんだけど、一体いつになったら城に着くんだよ!?」

「この坂を登り切った先だから、もうちょっと頑張って!」

「あ、赤い屋根が見えてきたよ」

「えっ!?」


 急な上り坂にヒーヒー言っていたみんなが、九条くんの言葉に一斉に前方を見上げる。
 すると確かに澄み切った青空によく映える赤瓦の屋根が、石垣で出来た高い城壁の奥からちょこんと覗いているのが見えた。


「おおマジだっ! よしっ! んじゃオレが城に一番乗りしてやるぜぇーーっ!!」

「あっ、ズルい! 一番はボクが貰うから!!」

「もうっ、お二人とも! 走って転んでも知りませんからね!?」

「言いながら朱音ちゃんも走っちゃってるし……」

「ははっ」


 坂をどんどん駆け登って小さくなっていく三人の後ろ姿を見ていると、私の横を歩いていた九条くんが笑った。


「本当に彼らといると、毎日騒がしくて飽きないよ。特に朱音がこんなに活発な性格だとは思わなかった」

「九条くん……」


 元気に走る朱音ちゃんを、九条くんは眩しそうに見つめる。

 幼い頃から、監視する側とされる側だった二人。
 もしあの騒動が無ければ、今もまだ二人が言葉を交わすことは無かっただろう。

 九条くんの心の内は分からないが、嬉しそうなその表情を見る度に、やっぱりあの時九条家に行ってよかったのだと、心から思うのだ。


「まふゆ」


 想いを馳せて首元で揺れるホタル石をそっと撫でていると、九条くんが私を呼ぶ。


「俺達も置いて行かれないように急ごうか」

「うん」


 それに頷いて、私は九条くんと肩を並べて坂道を登る。

 ――さぁ。水着探しと共に目的のひとつだったお城は、もうすぐ目の前だ。