「九条様だ。女子に囲まれてる」
「マジだ。逆ナンかよ、肉食女すげぇー」
「へっ!?」
「もぉー、お二人とも! 楽しそうに言わないでください! まふゆちゃん、気にしなくていいからね!」
「え?」
雨美くんと夜鳥くんの言葉に、何故か胸がモヤッとする。そして朱音ちゃんはどうして私をそんなに心配そうに見るのか。
よく分からないままフラフラと私も部屋の外の様子を見に行けば、確かに何人かの女の子が九条くんに熱心に話しかけていた。
そしてその内の一人が、九条くんの腕に触れるのをバッチリ見てしまい、更に胸のモヤモヤが膨らんでいく。
――って、だからなんでモヤモヤ!?
九条くんが女の子と親しくしてたって、別に私には関係ないじゃないっ!!
なのに、なんで――……。
「――まふゆ」
「!」
よく知った声にハッと顔を上げれば、いつの間に女の子達を振り切ったのか、目の前に九条くんが立っていた。
「……っ!」
今考えていたことが伝わってしまいそうで、羞恥のあまりとっさに私は九条くんから視線を逸らす。
「な、何……? 途中からいなくなってたけど、一体何をして――」
「これを、まふゆに渡したくて作ってた」
「え……」
私が全て言い切る前に〝これ〟と言って見せられたのは、一本のネックレス。
そのトップにはホタル石が光を受けてキラキラと赤く輝いていた。
「作ったって……、じゃあ途中からいなくなったのって……。というか、なんで私に?」
「今までのお礼に。この石、まふゆの瞳の色に似てたから。……首を少し傾けて」
そう言ってネックレスを持った九条くんの両手が私の首に回される。
それに展開に追いつけないながらも素直に首を傾ければ、カチリと小さな音が首の後ろでした。
「やっぱり似合ってる」
顔をそっと上げると、九条くんの嬉しそうな笑顔が間近にある。
それにどんな表情をしていいのか分からず、私はただ小さく「ありがとう」と呟くしかない。
――ああ、でも。
「九条くんは……知ってるの?」
「ん?」
ホタル石というのは、光の当たり具合で様々な色合いになることを。
ちょうど私の方からは、まるで九条くんの瞳のような金色に見えていることを。
「……ううん」
先ほどまではあんなに胸に巣食っていたモヤモヤが今はすっかり晴れて、不思議なくらいに嬉しさで心が満たされていく。
結局また私は、九条くんしか見えていない。
「なんでもない」
九条くんのことで一喜一憂するこの気持ち。
私はまだ、この感情の正体を見つけられていない。