「ソーキそばっていうのは、小麦粉で作った麺を豚骨スープに絡めたティダの郷土料理だよ。特にこのお店のソーキそばは、めちゃくちゃ美味しいんだから!」
「へー。ラーメンの親戚みたいな感じか?」
「お腹も空いたし、楽しみだね」
みんながワイワイとお店の中へ入っていく。
「…………」
「? 九条くん?」
けれど九条くんだけは、お店を見上げてぼんやりとしたままだった。
不思議に思って声を掛ければ、ハッとしたように九条くんがこちらを見る。
「ああ、ごめん。ボーっとしてた」
「大丈夫? もしかして体調が……」
真夏のティダは、暑さに慣れた現地住民でも結構しんどいのだ。初めての場所に寝泊まりする九条くんなら、尚更に体調を崩しやすいに違いない。
しかし九条くんはそうではないと首を横に振る。
「体調は本当になんともないんだ。なんというか不思議なんだけど、この店を以前にも見たことがあるような気がして……」
「え? 九条くんって、ティダに来たのは初めてだって言ってたよね?」
「うん。その筈なんだけど」
「??」
私もお店の外観をじっと見て、首を捻る。なんの変哲もない、少々古ぼけた赤瓦の小さなお店。
このお店に九条くんが……?
「いや、ごめん。変なことを言った。多分どこかで似たような店を見て、記憶が混同しているんだと思う。早く店に入ろう」
「…………」
九条くんはそう言うが、本当にただの記憶違いなんだろうか?
だって赤瓦の屋根の……南国建築のお店なんて、世界広しと言えど、きっとティダにしかない。
「まふゆ」
「あ、うん」
どこか釈然としない気持ちを抱えたまま、私も九条くんに続いてお店の中へと足を踏み入れた。