「分かった、じゃあこうしよう。私は九条くんの症状を癒やす。九条くんは文化祭の挨拶を含めて、生徒会にちゃんと参加する。守らなかったら、お互い秘密を暴露するなりなんなり自由ってことで」
「了解。契約成立、だね」
今朝早々、世界の平和には全く影響はないが、私の人生の平和には大いに影響がある契約が交わされた。
そう、それが今朝のこと――……。
◇
「ああっ! 神琴さまの横顔、なんてお美しいの? まるで女神像のようだわ……!」
「見て! 神琴さまが熱心に板書を書き取っていらっしゃるわ! 私も神琴さまに使われる筆記具になりたいっ……!」
「…………」
あーお昼ごはん前の4時限目って、お腹が空いて集中できないよね~。分かる分かる。
「はぁ……神琴さま……」
「~~~~っ!」
現実逃避した思考が、すぐにまた女子達のうっとりと陶酔した声によって現実へと引き戻され、私は絶望する。
なんなの!? 授業中だというのに、この桃色ピンクの空間は!? ここはどこだよ!? 教室だよッ!!!
「はぁ……」
一人脳内ノリツッコミをした後、私は隣に座る元凶をちらりと見やる。
すると元凶――九条神琴は、美しく姿勢を正して座り、まるで楽器でも弾いてるかの如く、なんとも優雅な仕草でサラサラと板書を写し取っている。
そしてそれをうっとり見つめる女子達。そんな女子を引いた目で見ている男子達。
更に授業をする男性教師の目は完全に死んでいた。死ぬな! 気をしっかり持て!!
……何故こんなにカオスなのか。
それは私の妖力によってすっかり体調を回復させた九条くんが、なんと「授業に出る」と言い出したからであった――。