「お城見学。木綿先生が一番楽しみにしてたのにねー」

「うん……」


〝お城〟とは、かつてティダの地を治めていた王族が遺したとされる、鮮やかな赤瓦が特徴的な宮殿のことである。
 今ではすっかり観光地化して久しいが、ティダを代表するシンボル的な建造物と言えた。

 我が家の南国建築に興味津々だった木綿先生は、やはりお城の方にも強い関心を示しており、それだけに今回の欠席はさすがに不憫に思う。


「せめて先生には何かお土産を買っていこうか」

「そうだね。……ところで、ねぇまふゆちゃん」

「? 朱音ちゃん?」


 と、そこで急に声のトーンを落として朱音ちゃんが(ささや)く。
 それに何事かと私が首を傾げると、朱音ちゃんは少し話すのを躊躇(ためら)った後、小さな声で私に言った。


「昨日のあの子……。魚住(うおずみ)カイリちゃんが、まふゆちゃんを跳ね飛ばしたことなんだけど……」

「ああ」


 ひとつ頷けば、昨日のことがはっきりと脳裏に浮かんでくる。


『嘘だっっ!!!』


 あの時、カイリちゃんが叫んだ瞬間、何らかの力によって私の体は吹き飛ばされた。


『ごめん……、ごめんなさい……』


 彼女のあの取り乱しようからして、意図したもので無いことだけは分かるんだけど、であるならばあれは一体なんだったのだろうか? 


 もしかしたら、彼女は……。


「あのね。わたしも似たような経験があるから分かるんだけど、カイリちゃんは半妖じゃないのかと思うんだ」


 朱音ちゃんの言葉は、私も予感していたことだった。