半ば脅しではあったが、交換条件を提示したことといい。私に選択権を与えようとするなんて、九条くんは存外不器用だ。
貴族なんだから、庶民に命令すれば簡単なのに。
そして私も彼の言う通り、どうしようもないお人好しなのかも知れない。けれど事情を知ってしまった以上、何もしないのは私自身がモヤモヤして精神衛生上悪いのだ。
そう、だからこれは九条くんのためじゃない。
あくまでも私自身のため。
「……病気のことは、私以外で知ってる人はいるの?」
「家の者以外は知らない。これでも世間では九条家の跡取りで通っているからね。醜聞は避けたいらしい」
「……?」
そう言って九条くんが自虐的に笑う。
何やら含みのある言い方が気になるが、聞いたところではぐらかされそうだし、そもそも人の家の事情に首を突っ込む趣味はない。
「分かった、じゃあこうしよう」
私が九条くんを見つめれば、九条くんも私を見つめ返す。金の瞳と視線がぶつかった。
「私は九条くんの症状を癒やす。九条くんは文化祭の挨拶を含めて、生徒会にちゃんと参加する。守らなかったら、お互い秘密を暴露するなりなんなり自由ってことで」
図らずも九条くんにも私と同様、周囲に知られたくない秘密があることを知ってしまった。
ならば不本意ではあるが、私達は運命共同体。協力し合う方が、お互いにメリットがあるだろう。
「――どう? いい交換条件でしょう?」
ニヤリと笑って見せれば、私の話を黙って聞いていた九条くんがふっと笑った。
悪鬼じゃない、優しい微笑み。そのあまりの美しさに、思わず見惚れてしまう。
「了解。契約成立、だね」
――こうして。
この日、秘密を持つ者同士の密やかな契約は、ここに交わされた。
私はイケメン妖狐様の癒し係となったのである。
