あれだけしつこかったのが嘘のような変わり身。掴んでいた私の腕を離し、慌てたように走り去って行く二人組をポカンと見つめる。

 一体どうしたのだろう……?


「まふゆちゃん、大丈夫!?」

「朱音ちゃん」


 声を掛けられて振り向けば、朱音ちゃんが心配そうにこちらを見上げている。


「もうっ! あの人達、まふゆちゃんの元同級生だかなんだか知らないけど、神琴(みこと)様に睨まれたくらいで逃げ出すなんて、根性無しなんだからっ!!」

「え?」


 九条くんが睨んだ? だから慌てて走り去ったの?

 思わず九条くんを仰ぎ見る。


「ごめん、まふゆ」

「へっ!? どうして!?」


 すると目が合った瞬間に謝られてしまい、意味が分からずに慌ててしまう。


「まふゆの同級生だって言うし、余計な手出しは止めておこうと思ってたんだけど、彼らが強引な行動に出そうだったから、思わず出しゃばってしまった」

「ううん! むしろ割って入ってくれて助かったし、謝らないでよ!」


 というかこちらの方こそ、いかに私の人間関係が希薄かということを知られてしまい、恥ずかしい。
 そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか、朱音ちゃんが「気にしなくていいよ」と笑う。


「半妖は元々特殊な存在だし、特にまふゆちゃんの場合は正体を隠してきたんだから、周囲との接触が必要最低限になるのは仕方ないよ」

「うん……、ありがとう」


 慰めてくれる朱音ちゃんに、私も笑いかける。
 そう、正体を隠してきたんだから仕方ない。


 ――でも、最近はこうも思うのだ。


『私にとって生徒会は大切な場所で、そこには九条くんだって必要なんです! 外せと言われて外すことなんて出来ない、だって私達は……!』


 生徒会のみんなや朱音ちゃん、クラスの女子達。
 雪女の半妖であることを隠しながらも、少しずつ私はみんなとの距離を縮めてこられた。


『大丈夫だよ。朱音ちゃんが誰だって、何をしていたって、関係ない。だって私は知ってるもん。朱音ちゃんは頑張り屋さんで、ふわふわ可愛くて、いつだって私のことを心配してくれていたのを』


 そして半妖であることを知られたとしても、築き上げた関係がそう簡単に壊れたりはしないことも知った。


 だからこそ、思う。


 以前までの私は、〝雪女の半妖〟であることを他者と関わらない言い訳にしていたんじゃないのか――と。