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ことのはじまりはたった数十分前に遡る。
授業が終わって放課後、いつものように生徒会室へと向かった私は、そこで生徒会顧問の先生に言われたのだ。
――九条神琴を生徒会室へ連れてきてくれないか、と。
「え、九条くんをですか? なんでまた今更……。生徒会が発足してもうすぐ2ヵ月なのに、いまだに一度も顔を出さないような人ですよ?」
生徒会室に入ってすぐ、待ち構えていた先生から面倒そうな話を振られて、私は眉をひそめる。
なにせ九条くんと言えば……。
「もうすぐ2ヵ月だからこそなんですよ、雪守さん!! 僕としては、この2ヵ月の間に一度くらいは彼も顔を出すものと目論んでいたのです! なのに九条くんはただの一度も生徒会に姿を見せない! これは由々しき事態ですよ!! 来月の文化祭には、なんとしてでも参加を取りつけないと困るのにぃぃ……!!」
「文化祭……? ああ、生徒会長の挨拶ですか? それならいつものように私が代理で……」
「それじゃあダメなんですよぉ!! 父兄はあの〝三大名門貴族〟のひとつ、妖狐一族九条家の次期当主の挨拶を期待しているんですよぉ!! なんとしてでも九条くんに挨拶してもらわないと、僕も学校長から叱責があぁぁ!!!」
「はあ……」
この世の終わりとばかりに大袈裟に茶髪のロン毛を振り乱して絶叫する先生に、つい冷めた返事をしてしまう。
仮にも先生相手に失礼だったかなと思ったが、当の先生は話に夢中で私の態度など目に入っていないらしい。何故か両手を合わせて、私にどんどんと迫ってきた。