「やべ、そーいえばそうだった」
「勢いで来たから、泊まるところなんて何も考えてなかったね」
「僕、野宿なんて嫌ですよぉ〜っ!!」
「うふふ。木綿先生ったら、野宿も一度体験すると楽しいものですよ」
「お前達……」
みんなの発言に頭痛がしたのか、九条くんが額に手を当てて盛大に溜息をつく。分かるよ、その気持ち。
ていうか野宿も体験すると楽しいって、朱音ちゃんは今までに一体どんな経験を……?
九条家暗部恐るべしである。
……まぁそれはともかく、さすがに本気で野宿という訳にはいかないだろう。
「だったら家に泊まりなよ。お母さんテキトーだから、お客さんが多少増えたところで何も言わないし」
私がそう言うと、九条くんが驚いたように目を見開いた。
「えっ! 多少って、一気に一人から五人だよ? 本当に全員泊めて平気なのかい!?」
「五人なら多少の範囲だよ。平気平気」
具体的な数字を出されると確かに多い気もしたが、まぁお母さんだし、大丈夫だろう。今日は酔い潰れて寝ちゃっているから、明日の朝言えばいいか。
そう考えてみんなを家に案内しようとした時だった。
「つーか雪守、なんか天狗のおっさんが九条様と雪守は恋人だから二人の邪魔すんなとか言ってんだが、お前らいつから恋人になったんだ?」
「は?」
言われた意味が理解出来ず、しばし固まる。
「おうっ、今朝振りだな嬢ちゃん達!」
すると今朝私達を運んでくれたあの赤鼻の天狗のおじさんが、ヒョコッと方舟から顔を出したのだ。
「済まねぇな。アベックの邪魔はしちゃなんねぇとコイツらに言い聞かせたんだが、いいから連れてけと何度もせがまれてな」
どうやらおじさんはまだ私達のことを、勘違いしたままのようだ。ていうかアベックって何?
「えっと、私達はそういうんじゃ……」
「おおっと! オレっちは次の仕事が控えてんだ! んじゃ大変だろうが、ご両親に認めてもらうんだぞ!!」
「あのっ……!」
私の話を聞かないおじさんは、そのまま慌ただしく方舟を発進させ、あっという間に夜の闇に紛れて見えなくなってしまった。
それを私と九条くんは呆然と見つめる。
「……朝も思ったけど、騒がしいおじさんだったね」
「うん……。結局誤解も解けなかったし」
アベックの意味も結局不明だが、まぁいいか。
気を取り直して、改めて家の中へと案内する為に私はみんなに向き直った。