「なんでみんながティダに居るのっ!!? ワビ湖は!? オモイ沢は!?」
混乱のあまり大絶叫する私に、最初に方舟から降り立った雨美くんが説明してくれた。
「それがうちの親が急に皇宮に呼ばれたとかで、避暑地行きも中止になっちゃったんだよ」
「えっ、〝皇宮〟?」
聞き慣れない言葉だが、つまり皇帝陛下に雨美くんのお父さんが呼ばれたということだろうか? さすが貴族。庶民にとっては雲の上の話である。
「オレん家も同じでさ、親父のヤツが朝から出かけちまってて、聞けば水輝の親もそうだって言うじゃねぇか。んで暇だし、だったら木綿でも冷やかしに学校に行こうかってなったんだよ。そしたら――」
「ちょうど僕と不知火さんが職員室で話をしている時に二人が来ましてね。そこでそういえば九条くんも寮にいるという話になりまして」
雨美くんの後から降りて来た夜鳥くんと木綿先生が、言葉を続ける。そして最後に方舟から降り立った朱音ちゃんが、申し訳なさそうに眉を下げて言った。
「ごめんね、まふゆちゃん。わたしがみんなに神琴様は今まふゆちゃんと一緒にティダに行ってるって、言っちゃったの」
「朱音ちゃん……」
しゅんとして今にも怒られるのを待っているかのような様子の朱音ちゃんを、誰が責めることが出来ようか? いや出来ない。(反語)
とはいえ事情は分かったものの、まだ疑問点は解消されていない。
「だからってなんで、みんなしてティダまで来ちゃってんの!? 雨美くんと夜鳥くんはともかく、朱音ちゃんは演劇部は? 木綿先生なんて、仕事はどうしたんですか!?」
「わたしは部長さんにみんなとティダに行くことを伝えたら、大賛成で送り出してくれたんだよ」
「僕は生徒会の引率って名目でダメ元で上層部にお伺いを立ててみたら、何故かOKされちゃいまして。せっかくなんで来ちゃった次第です」
「はあ……」
常夏のリゾートで過ごすなんて憧れだったんですよね〜と、のん気に笑う先生に一気に脱力する。
するとそんな私の肩を九条くんがポンと叩いた。
「まふゆ。とにかく今日はもう遅いし、話は明日にしよう。……泊まる場所はもちろん確保しているんだよな?」
最初の言葉は私に、後の言葉はみんなに向かって九条くんが言う。しかしその言葉にみんなが「あ」という顔をした。