……ん? 

 なんだろう? なんとなく微妙な雰囲気が辺りを漂う。もしかして私、何か余計なことを言ってしまっただろうか……? 
 気まずさを感じて話題を変えようと、私はとっさに話題を探す。


「そ、そういえば! 雨美(あまみ)くんと夜鳥(やとり)くんは、今頃それぞれワビ湖とオモイ沢だよね! いいよね避暑地って、憧れるなぁー!」

「ティダだって帝都民にとっては、十分憧れのリゾート地だけどね」


 すると九条くんも話に乗ってきてくれて、内心胸を撫で下ろす。


「それ、朱音(あかね)ちゃんも言ってたよ」

「ああ。そういえば朱音に俺もまふゆとティダへ行くことを伝えた時、散々羨ましがられたな」

「あはは。今年は演劇部の舞台セット作りで忙しいみたいだけど、来年は朱音ちゃんも来てくれたらいいなぁ……」


 話ながらみんなの顔が頭に浮かんで、クスリと笑う。

 ――その時だった。

 ゴウゴウと上空から何かの音がして、私達の頭上が人工的な光で照らされたのは。


「眩しっ!? えっ、えっ、何!?」

「あれは……方舟(はこぶね)? なんでこんな時間に……」


 驚いた私達が空に浮かぶ方舟を見上げれば、船体からひょっこりと見覚えのある人影がこちらを見下ろした。


「ああー! まふゆちゃんに神琴(みこと)様だぁー!!」

「あ、朱音ちゃんっ!?」


 たった今噂をしていた、ここにいる筈の無い人物の登場に、私の頭がハテナでいっぱいになる。


「お、ホントだ、雪守じゃん!」

「九条様もやっぱり一緒だね」

「うう……。ようやく着いたんですか……? 方舟って初めて乗りましたが、こんなに酔うんですね……」

「いや、木綿(もめん)の乗り心地ほどじゃねーよっ!」


 わいわい言いながら朱音ちゃんの横からずらずらと顔を出すのは、夜鳥くんと雨美くんに、木綿先生。お馴染みの生徒会のメンバーで……。


 なんで、なんで……!


「なんでみんながティダに居るのぉーーっっ!!?」


 全員の顔を視界に収めて混乱した私の大絶叫が、静まり返った小さな田舎町に盛大にこだました。