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 夕食を終えた後、酔い潰れてすっかり寝入ってしまったお母さんの背中にブランケットを掛けて、気分を変えようと外へ出た。
 昼間はギラつく太陽によって茹だるような暑さだったが、夜は気温が下がってちょうど良い優しい暑さに落ち着いている。


「わぁ……」


 空を見上げれば、帝都では久しく見えなかった満天の星々が輝いていて、その光景に見惚れる。しばらくそうしていると、後ろから足音が近づいて来た。


「すごいね。帝都ではこんなにたくさんの星を見たことがないよ」


 振り返れば九条くんがこちらへ歩いて来ていて。そうしてそのまま私の隣で立ち止まる。


「……ごめん。俺が余計なことを言ったから、また君を悩ませてしまった」


 眉を下げて謝る九条くんに、私は首を振る。


「ううん。九条くんの言う通り、お母さんから妖力を感じないのは事実だもん。当たり前過ぎて、今まで不思議にも思わなかったけど、変だよね。半妖でもないのに……」


 実は夕食は食べている間、私はずっとお母さんの妖力を探っていた。するとやはりというか、九条くんの指摘通り、お母さんから妖力は一切感じなかった。

 どうして今まで気がつかなかったんだろう?

 私が周囲に半妖であることを隠して人間として生活して来たのと同じように、お母さんも周囲に人間と偽って暮らしてきた。
 だけどそれは、本来あり得ないことだ。妖怪は半妖と違って、妖怪であることを隠すことは出来ないのだから。


「…………ぅ、っ」

「?」


 考え込んで溜息を漏らすと、横から苦しそうな声がする。見れば九条くんがしゃがみ咳き込んでいて、私も慌ててしゃがんで彼の背中をさすった。


「大丈夫!? 九条くんっ!!」


 九条くんの様子を見ながら、背中をさする手に氷の妖力を込める。すると九条くんの荒い呼吸が、みるみるうちに鎮まっていった。
 それからしばらくして、息を整えた九条くんが小さく呟いた。


「……ごめん」

「いいって! その為に九条くんを無理矢理ティダに連れて来たんだからさ!」

「はは……、それもそうだね」

「…………」


 九条くんが軽く笑って黙り込む。