雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました



「知ってる~じゃないよ!! 何をそんな呑気な……! いい、お母さん! その葛の葉さんから、お母さんに伝言があったんだよ!!」

「伝言?」


 不思議そうに首を傾げるお母さんに、私は当主から言われた言葉を伝える。
 するとお母さんは空いたグラスにまた泡盛を注いでグビグビと飲んだ後、「ふぅん」と呟いた。


「葛の葉ってば、まだあのこと(・・・・)忘れられないのね」

「何? あの三大名門貴族の九条家当主相手に、何やらかしたの?」


 訝しげな私の視線に、お母さんが苦笑する。


「いや、なんでわたしがやらかす前提なのさ。……というかまふゆ、アンタこそなんでその三大名門貴族の九条家当主から伝言を受け取った訳?」

「そ、それは……」


 お母さんの指摘に、ギクリと目が泳ぐ。
 ま、まずい。つい口が滑って余計なことまで言ってしまった。上手い言い訳が思いつかず、口をモゴモゴさせる。


「一度俺が体調を崩した時に、家まで見舞いに来てくれたことがあったんです」

「そ、そう! その時に当主から伝言を受けたって訳!!」


 しどろもどろな私に九条くんが助け舟を出してくれたのでそれに乗っかれば、今度はお母さんが私に訝しげな視線を向けてきた。


「ま、いいけどさ」


 しかしお母さんはそれ以外追求して来なかったので、それにホッとしつつも、常とは違う様子に内心首を傾げる。
 するとお母さんはグラスに残っていた泡盛を全部飲み干して、溜息をついた。


「……別に大したことじゃないよ。昔、葛の葉とは男を巡ってちょっとしたイザコザがあったってだけ」

「はぁ?」


 なんだそれは。
 私は九条くんと顔を見合わせる。

 あの唯我独尊を地で行くような当主が、惚れた腫れたでお母さんとイザコザとか、にわかには信じ難いんだが。
 更にあの時の当主の口振りは、お母さんが言うような〝大したことじゃない〟という感じじゃなかったように聞こえた。
 

 それに――。


「ほら、お喋りはここまでにして箸を動かす。さっさと食べないと、料理が冷めちゃうわよ」


 これで話は終わりと言わんばかりに、お母さんはまた新たな泡盛をグラスに注ぐ。どうやら今日はこれ以上話を聞くことは無理そうだ。

 心の中でひとつ溜息をついて、私はもう既に冷めつつある煮魚を口に入れた。