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「ちょっとお母さんっ!! なんなのこの、汚ったない部屋はぁーーっ!!?」


 とりあえず気を取り直して玄関を抜け、居間に足を踏み入れた瞬間、あまりの光景に私は絶叫した。

 足の踏み場もないくらいに服やら雑誌やらが散らかっていて、とてもじゃないが客を迎えるような状態じゃない。
 どうせズボラなお母さんのことだから、家が汚部屋になっていることは想像していた。

 しかしこれは、想像以上じゃないかっっ!!!


「えーそお? そんな汚い? 別にフツーじゃない?」


 肩を怒らせて怒鳴りつける私を一瞥すると、おどけたようにお母さんが笑う。
 そして反省の色もなく、九条くんが持ってきた手土産のお菓子を早速開けて食べているのだ。


「はぁ……」


 そんなマイペースな様子に、怒る気も削がれて脱力する。言っても(らち)が明かないので、私はお母さんは無視して部屋を片付け始めた。


「俺も手伝うよ」


 すると九条くんが床に散らばった雑誌を片付け始めたので、私は慌てて静止する。


「や、それはさすがに悪いから! 九条くんはそっちのイスに座っててよ!」

「いや、それはこっちこそ今日から泊めて貰うのに悪いよ。それに一人でやるより、二人の方が早く終わるでしょ」

「でも……」

「そーそー、一宿一飯の礼ってね。やっぱり男の子って、頼りになるわぁーー!」


 いけしゃあしゃあとそう(うそぶ)き、またお菓子の包みを開くお母さんに、ヒクリとこめかみが動いた。


「そう言うお母さんも、食べてないで片付けを……」

「あーまふゆ。片付けついでに、その魚もいい感じに(さば)いといてよー」


 私の言葉を遮って、お母さんは机の上を指差す。するとそこに放置されていたのは、先ほどお母さんが担いでいた、あのバカでか魚で――。

 その魚を見た瞬間、私の頭の血管がブチ切れた音を聞いた気がした。


「お母さんっっ、ズボラも大概にしろーーっっ!!!」


 この時の私の怒鳴り声は、遠く離れた隣家にまで届いたという。反省。