「……うるさい。あんま大きな声出さないで。頭に響いて余計に目が回る」


 嫌そうな声を上げながら、自身の右腕で両目を覆い隠すようにして、九条くんが昨日と同じベッドに横になっていた。呼吸はやはり、はぁはぁと荒い。
 苛ついているのか、昨日ほどではないが、九条くんの全身からは火の妖力がバチバチと漏れ出ていて、本能的な恐怖に私は身をすくめた。
 なんだかそれすらもまるで昨日のようだと、軽い既視感を覚える。


「は、え? 何? また具合が悪くなったの!?」


 とりあえずベッドまで駆け寄り、彼の様子を伺う。
 了解を得て軽く額に触れれば、昨日以上に発熱しているのが分かった。見ればベッドには汗がじっとりと染み込んでいる。


「ええ……?」


 一体九条くんはいつからここで寝ていたのだろう……?

 訳の分からないことだらけだが、かなり辛いだろうということは間違いない。とりあえず話は体調が落ち着いてから聞こうと心に決め、私は昨日と同じように手のひらに氷の妖力を込めた。


「――――」


 そうしてそのまま九条くんの額に手を当てれば、みるみると彼の呼吸音は落ち着き、まるで紙のように白かった顔の血色も戻ってくる。
 こうして治っていく過程を目の当たりにしても、実に不思議だ。自分としてはちょっと冷やすだけの感覚なのに、まさかこれ程の威力を発揮するなんて。にわかには信じがたかった。
 九条くんは私の妖力が強いと言ったけど、本当なのだろうか……?


「…………ふぅ」


 動けるようになったのか、深く息を吐いた九条くんは、両目に乗せていた右腕を下ろした。
 現れた金の瞳が私を捉える。


「どう? 楽になった?」

「ああ、ありがとう。君がお人好しで助かった」

「なっ!?」


 ベッドから上体を起こして、九条くんが軽口を叩く。仮にも助けられた相手に対するとは思えない言い草に、口元が引きつるのを感じる。
 しかしここは大人にならねば。九条くんは皮肉が言えるくらい回復したのだ。そう前向きに捉えて、私はなんとか怒りを鎮めた。