「俺も一緒にって……、意味分かって言ってる? 君のお母さんには俺のことをどう話すつもり?」
「お母さんのことなら大丈夫だよ! お客さんの一人や二人、全然気にしないから!!」
「いや、そういう意味じゃないんだけど……」
「はーっ、そうと決まれば楽しみー!」
九条くんが横でまだ何かゴニョゴニョと言っていたが、憂いの消え去った私の頭の中は、すっかりティダ一色だった。
こうして私は、(強引に)九条くんとティダに行くことになったのだが――。
◇
天狗のおじさんの冷やかしに、ようやく私は九条くんがなんであの時、何度も何度も念押ししてきたのかを理解した。
ど、どうしよう……!? 単に九条くんのことが心配な一心だったから、私達が周りからどう見られているかなんて、考えたこともなかった……!!
このまま九条くんと一緒に帰ったら、お母さんなんて言うだろう……!?
いつもみたいに笑い飛ばす? それとも――。
九条くんを連れて行くことは、手紙でお母さんに事前に伝えてある。しかし例によって返事は来ていないし、恐らく読んでいるかも怪しい。つまりは出たとこ勝負だ。
「ううう……」
自業自得ではあるが、内心頭を抱えていると、天狗のおじさんの朗らかな声が前方から響く。
「おーい、嬢ちゃん達! 目的の住所に到着だぞぉー!」
「えっ、もう!?」
まだ心の準備が!! と思いつつ、方舟から身を乗り出せば、確かに見覚えのある赤瓦の屋根が見える。
私の苦悶をよそに、空飛ぶ方舟がふわふわと小さな家の前へと降りようとしていた。