「九条くんは、夏休みどうするの?」
「俺はいつも通り寮で読書でもして過ごすかな。実家は知っての通り、あまり寄り付きたくないしね」
「あー……そっか」
「そういえば九条様って、寮に入られているんだったね」
「あの騒動の直後に聞いた時は驚いたけど、まぁ確かにあんなヤベー当主が居る屋敷じゃあ、それも納得だよなぁ」
しみじみとした様子の夜鳥くんの言葉に、私も全面的に同意する。
まだ記憶に新しい、九条くん退学騒動。その中で三大名門貴族である九条家のお屋敷に私達生徒会は乗り込み、私は妖狐一族当主、九条葛の葉と対峙した。
『そうじゃな、少々唐突過ぎたか。まずは挨拶をしておこう。妾は九条神琴の母で、妖狐一族当主、九条葛の葉。以後見知りおきを願おう』
九条くんの〝母〟と名乗りながらもその見た目は幼く、僅か10歳程度の少女しか見えない。しかしその話し方はとても老生していて、相対した者に異様な印象を与える。
『妾は神琴の親ぞ? 親が子をどうしようが、妾の自由であろう』
謎理論で嫌がる九条くんを屋敷の地下室に繋いだ上に、私の大親友、朱音《あかね》ちゃんをも傷つけた張本人。
確かにあのトンデモ当主のいる屋敷になど帰れる訳がない。ただでさえ九条くんは病を患っているのに、あの屋敷で過ごしたらますます悪化すること間違いなしだ。
言ってから、悪いことを聞いてしてしまったと反省する。
…………ん?
あれ? でもちょっと待って。何か根本的なことが抜けてない??
そもそも私がティダに行ったらその間、九条くんが発作を起こした時に癒すことが出来ないんじゃ……?
「――――っ!!」
思い至った事実に愕然とする。
そうだよっ!! ティダに帰れることに浮かれて、九条くんの病気のことをすっかり失念していたとか、バカか私っ!!?
「……まふゆ? なんか凄いしかめっ面になってるけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫……!」
九条くんに指摘されて、私は慌てて表情を緩める。
い、いかん! また考えてることが顔に出てた。前にも九条くんに指摘されたのに。ぐいぐいと頬を引っ張って、私は唸る。
とにかく生徒会が終わったら、九条くんとちゃんと話をしなくっちゃ!!
そう心に決めて、私は会議を再開するべく資料を片手に口を開いた。