見渡す限り一面に広がる澄み渡った青い空。そして眩しいくらいに真っ白な砂浜。更に忘れてはならないのが、エメラルドグリーンに輝く美しい海。

 空気を胸いっぱいに吸い込めば、懐かしいハイビスカスの甘い匂いが体全体に行き渡る。

 ついに、ついに……。


「ティダに帰って来たーーっ!!」


 感極まって叫べば、空飛ぶ方舟(はこぶね)を運転している赤鼻の天狗(てんぐ)のおじさんの軽快な笑い声が、小さな舟いっぱいに響き渡った。


「あははははははっ! 元気でいいねぇ! なんだい嬢ちゃん、もしかしてティダが故郷なんかい?」

「はい! 普段は帝都に住んでいるので、帰って来たのは半年振りなんです!」

「おーそうかい! そりゃ嬉しい訳だ。じゃあそっちの(・・・・)兄ちゃん(・・・・)もティダ出身なんかい?」


 ――〝そっち〟

 そう言って天狗おじさんは、私の隣に立つ人物へと視線を向ける。
 するとその視線の先、話しかけられた白銀の髪を風に(なび)かせた美貌の男は、琥珀のような金の瞳をふわりと緩め、答えた。


「いえ、俺は帝都からの旅行者です。今日は彼女の帰省に同行させてもらいました」

「おおーっ、そうかい! いやぁー若いっていいねぇっ!!」

「?」


 突然おじさんが妙にテンションを高くして、ヒューヒューと(はや)し立ててくる。意味が分からず首を傾げれば、更におじさんは言葉を続けた。


「恋人と里帰りなんて青春だねぇ! はぁー、オレっちも若ぇ頃はそりゃもうなぁ……」

「こっ……!!?」


 驚き過ぎて思わず変な声が出た。

 え、恋人?? おじさん今、私達のこと恋人って言った!? いやいや違うんです! 私達はただの友達男女二人で旅行しているんですっ!! 

 そんな言葉が頭の中を駆け巡るが、今の私達を客観的に見たら、そう勘違いされるのも無理もないのだと気づいて、開けかけた口を閉じる。


「~~~~っ」


 いやでも! 恥ずかしいものは、恥ずかしいっ……!!

 顔がジワジワと火照るのを感じながら隣の人物を伺えば、美貌の男――九条神琴(くじょうみこと)はいつもの涼しい顔のまま。おじさんの冷やかしなど、まるで気にしていない様子だ。
 それにホッとするような、でもどこか寂しいような、複雑な気持ちがモヤモヤと私の心をかき乱す。


 ――そう。

 私、雪守(ゆきもり)まふゆは夏休みに突入したこの日、半年振りに故郷であるティダへと帰省していた。九条くんと共に(・・・・・・・)

 何故そうなったのか。

 それは夏休み前最後の生徒会に(さかのぼ)る――。