◇
「あ」
昔のことを思い返している内に、いつの間にか生徒会室の前に辿り着いていた。実は中に入るのは初めてなので、少々緊張してしまう。
「まふゆちゃん、来たよ」
コンコンと扉を控えめにノックする。しかし返事が無い。
「……?」
不思議に思っていると、何やら扉の向こうから話し声が聞こえてくる。もしかして話に夢中で、今のノック音に気づかれなかったのかも知れない。
「失礼します……」
いつまでも扉の前で立っている訳にもいかないので、わたしは思い切って扉を開いて生徒会室へと足を踏み入れる。
「――――え」
すると目の前に広がっていた光景に、わたしの目は点になった。
「う~ん、モフモフ最高~」
「あのね、まふゆ……」
「えへへ」
「…………」
風船や花で室内を可愛く飾り付けられ、〝九条くん帰還おめでとう〟と横断幕が掲げられた生徒会室の真ん中に、まふゆちゃんと神琴様がいた。
他のみなさんは見当たらないし、どうやらまだ来ていないみたい。しかしそれよりも気になるのは、二人のその姿だった。
何故か神琴様は妖狐の耳と尻尾を生やした本来の姿を露わにされていて、その九つの尾にまふゆちゃんが顔を思いっきり突っ込んで幸せそうにスリスリしている。
一方神琴様はそんなまふゆちゃんを横目で見ながらも、目は完全に死んでいた。
……どうしてそうなったの?
「ふわぁ、やっぱモフモフっていいよね。九条くん! これからも定期的にモフらせてねっ!」
「え。これを繰り返すのは、俺の精神的なダメージが……」
「九条家のことで迷惑かけたから、お礼になんでもしてほしいこと言ってってさっき自分で言ったんじゃん! 私はまだモフり足りない!」
「まさかこんなことを言われるとは思わなかったんだよ……」
そう言って両手で顔を覆う神琴様に構わず、またまふゆちゃんはモフモフとその尾に顔を突っ込む。
「うふふ、ふわふわ……」
確かに神琴様の尾は、妖狐の中でも一際美しい白銀の柔らかな毛で、尾の一本一本にしっかりとしたボリュームがあるので、触り心地は極上に違いない。
うっとりと尾に頬を寄せるまふゆちゃんの表情は、まるで愛玩動物を愛でる姿にも似ていて。そんなまふゆちゃんに複雑そうな表情をしながらも、それでも決して拒否はせず、大人しくされるがままの神琴様に、わたしは心の中でエールを贈った。
――神琴様、頑張ってくださいっ!!
◇
もうわたしに神琴様監視の任は無い。
それでもわたしはこれからも、二人の友人として彼らを見守っていくつもりである。
番外 とある少女のひとりごと・了
