「はー……嫌だ嫌だ嫌だ」
翌朝。登校した私は、保健室の扉の前で昨日と同様、ひたすらウロウロとしていた。
『うん、そうさせてもらう。それじゃあ雪守さん、また明日の朝ここで会おう』
昨日の九条くんの人を嘲笑うかのような発言を思い出し、私はギリギリと顔を歪める。
正直あんな一方的な約束に従う義理も無い。だけど文化祭の挨拶をすっぽかされるのはまずい。
何より私の秘密をあの男に握られてしまっている。これが一番、非常にまずい。
「…………」
多分、私をここにおびき寄せる交換材料に使うくらいだから、そう無闇やたらに言いふらすとは思わない。とはいえ信頼に足る人物とは到底思えないので、ヤツの口車に乗るのは癪だが来てやったのだ。
「朝っぱらからわざわざ呼び出して、一体何をやらされるのやら」
ヤツの悪鬼のごとき邪悪な笑みが脳裏を過ぎる。そういえばムカついてたとはいえ、昨日わりと不敬な態度をとってしまったような……。
私の中の九条神琴の評価が地に堕ちたことは事実だが、それでもヤツは本来雲の上の存在なのだ。なんとか我慢して、大人な対応をしないと。
「はぁ……」
考える度に憂鬱さは増すが、この扉を開かない選択肢はない。朝はまだ保険医は常駐外の時間。つまり中には九条くんしか居ない。
「……覚悟するか」
私は周囲に誰も居ないことをサッと確認し、素早く保健室の中へと入った。
「来たよ、九条くー……」
わざとズンズンと足音を立て、強気に声を張り上げたのだが……、
「え……、ええっ!!?」
目の前に飛び込んできた光景に、思わず私は素っとん狂な声を上げてしまった。