雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました



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 物音を決して出さないようにして、神琴様のお部屋の天井裏からこっそりと彼の様子を伺う。どうやら今日は神琴様が〝ばあや〟と呼ぶ、年嵩の侍女が作ったいなり寿司を食べているようだ。
 モゴモゴと口いっぱいに頬張る姿はとても可愛い。

 あの日、偶然妖狐一族の当主様であられる葛の葉とお会いしたわたしは、神琴様の監視役という任務を与えられ、九条家の暗部部隊に所属することになった。
 使用人の中でも特に優秀な者しか所属することが出来ない暗部にわたしが所属すると聞いて、母はとても喜んだ。わたしを気味悪がっていた子達も、訓練によってわたしが自由に黒い妖力を操れることが分かると、「すごいね!」と一転して褒めてくれるようになった。

 だけど本当は、わたしは厳しい訓練を受けるのは嫌だったし、監視をすることによって、大好きな絵を描く時間が無くなることも嫌だった。

 それでも監視役を続けられたのは、ひとえに監視対象が神琴様だったから。
 わたしはあの渡り廊下で神琴様を見かけた時からすっかり彼に夢中になっていたようで、神琴様をずっと見ていられるのなら、嫌なことだっていくらでも耐えられた。

 今思えばそれは、わたしの淡い初恋だったのかも知れない。


「あのピンク色の髪の女の子は誰?」

「!!?」


 考え込んでいた目に、不思議そうにこちらを見上げる神琴様の金の瞳がかち合って、わたしの心臓が飛び出しかける。

 ま、また失敗してしまった……。鬼のように怖い暗部長をはじめ、先輩達の顔が脳裏に浮かぶ。
 本来監視役は監視対象から気取られてはならないと徹底的に教え込まれている。しかしまだまだ未熟なわたしは、上手く天井裏に隠れることが出来ないでいた。


「あの子は神琴様の護衛です。まだ幼く未熟ですのでああやって姿を見せてしまうこともありますが、本来護衛は神琴様の視界には一切入らないようにするものなのですよ」

「ふぅん」


 わたしが焦っていると、〝ばあや〟が上手くフォローしてくれ、ホッとする。


「あの子もいなり寿司が食べたくて、忍び込んで来たのかと思ったよ」

「……!」


 まさかの食いしん坊だと思われていた事実に顔が真っ赤になるが、美味しそうにパクパク油揚げが裏返しになったいなり寿司を食べる神琴様を見て、確かにちょっと食べてみたいなと思った。

 ――そしてそんなわたしの淡い想いは、あの日(・・・)を境に急速に変化していく。