「ふふ。可愛いお手紙」
わたしはピンク地に可愛らしいお花が描かれた便箋を読みながら、目的地の生徒会室へと歩いていた。
〝朱音ちゃんへ〟
そう綺麗な文字で書かれたその手紙には、九条くん帰還記念祝賀会のお知らせと記されている。
「本当にまふゆちゃんって、まめだなぁ。毎日勉強に生徒会のお仕事にとても忙しそうなのに、こうやってお手紙を書いて、祝賀会の準備まで進めていたなんて……」
そう呟いて頭に浮かぶのは、九条家の次期ご当主様であり、わたしがつい最近まで監視対象だった、白銀の髪に金の瞳をもつ美しい妖狐の少年のこと。
あの方もきっと今日の祝賀会を心待ちにしていたことだろう。なんてったってまふゆちゃんが手ずから準備したのだから、彼が喜ばない筈がなかった。
「ふふっ」
その喜ぶ姿がすぐに想像出来て、思わず笑みが零れる。そしてそこでハタと不思議に思った。
ほんの少し前までは神琴様の笑顔なんて想像もつかなかったのに、今ではいくらでも想像出来てしまうなんて……。
「やっぱりまふゆちゃんはすごいなぁ……」
改めて実感する。
だってずっと閉ざされていた神琴様の心を、まふゆちゃんは一瞬にして開いてしまったのだから――。