確かにそれはずっと気になっていた。
当主は女性の葛の葉で、屋敷の使用人も全員女性。そしてその使用人の子ども達もみんな娘。見事に女性しかいない。
彼女達の夫は妖狐以外の妖怪ばかりだし、男性の妖狐は同年代どころか、年嵩の者すら見たことは無かった。
だが、その話と紫蘭という男性の死がどう結び付くのか?
訝しげに葛の葉を見ると、葛の葉は楽しげに笑う。その声は鈴を転がすように美しいのに、どこか不気味に聞こえる。
「元々妖狐一族は、男が二十年に一度程度しか生まれぬ女系だ。しかも生まれた妖狐の男は、必ずある病を持って生まれる」
そこまで言って、葛の葉の笑い声がピタリと止んだ。
「……発作的に妖力が体の中で暴れ出し、異常な発熱と呼吸困難に陥る病。当然、紫蘭もその病を患っていた」
「!!」
ドクンと俺の心臓が、大きく音を立てる。
妖力が体の中で暴れ出し、異常な発熱と呼吸困難……。それは紛れもなく身に覚えのある症状で。
じゃあ、紫蘭という人は――。
思い至った事実に、ガクガクと体が震え始め、血の気が一気に引いていく。
葛の葉はそんな俺をジッと見つめ、更に言葉を続ける。
「このことは、妖狐一族でもごく僅かの者しか知らん禁忌。屋敷の者以外には他言は無用じゃ。それと言っておくが、アレには単に暇を出しただけじゃ。そもそもそなたも10歳。いつまでも子守される年齢ではないであろう」
そこまで言うと、葛の葉は踵を返そうとしたので、俺は震える体を叱咤して、その背中に向かって声を上げる。
「――じゃあどうして!!」
「うん?」
こちらを振り返った葛の葉に、俺は思いの丈をぶつけるように叫ぶ。
「じゃあどうして葛の葉は、ぼくを当主にしようとしているんだよ!? 当主になったってすぐに死んじゃうぼくを、どうしてわざわざ養子になんてしたんだよっ……!!」
「…………」
肩を怒らせ興奮する俺を、葛の葉は黙って一瞥し、そして――。
「ただの気まぐれじゃ」
そう吐き捨てた。
◇
「うう……」
葛の葉が出て行った後も、俺は一人真っ暗なこの場所で泣いていた。
泣けばすぐに駆けつけて、「神琴様、どうしたのですか?」と優しく頭を撫でてくれた、ばあやはもういない。
己の迂闊な発言を後悔し、ただばあやの無事を祈ることしか出来ない無力な自分を、俺は呪った――。
