「……え? 神琴様のお母様とお父様ですか?」
「そう。本当のぼくの両親。ばあやは何か知らない?」
自室に戻って早々、おやつを用意していたばあやに思い切ってずっと気になっていたことを聞いてみた。
しかし案の定、ばあやは目を泳がせ困ったように何も言えないと首を振る。
何も知らないではなく、何も言えない。
それがどうしようもなく苛立つ。
「だったら誰に聞いたら答えてくれる? 葛の葉?」
「神琴様」
「どうしてぼくはこの屋敷に連れて来られたの? どうしてぼくは養子になった? ぼくは、本当の両親に捨てられて――」
「神琴様っ!!!」
まるで泣き叫ぶようなばあやの声に、俺はハッと我に返る。こんなことをばあやに言うつもりはなかったのに、やってしまった。
「…………ぼく」
バツが悪く、恐る恐るばあやを見上げれば、ふいに体が柔らかいものに包まれる。それがばあやに抱きしめられているのだと、しばらくしてから気づいた。
「ばあや?」
「神琴様、貴方様が捨てられたなどと、そんなことは絶対にありませんっ!! 紫蘭様も、姫様も、あなたを愛して――……」
「〝紫蘭〟?」
聞き慣れない名前に思わず聞き返す。
するとばあやはハッとしたように口元を押さえると、一気に顔を青ざめてガタガタと震え出したのだ。
「ねぇ、ばあや?」
そうしてそのまま俺が何度聞いても、答えは返って来ることは無かった。
◇
「おはようございます、神琴様」
「え……」
ばあやに本当の両親のことを問い詰めてしまった日の翌朝、俺を起こしに来たのはばあやでなく、狐面の侍女だった。
何故? この5年間一度だって、ばあや以外が俺を起こしに来たことは無かったのに。
「ばあやは?」
これほど胸騒ぎに揺れた瞬間があっただろうか?
侍女が言葉を発するまでの時間が永遠にも感じられた。
そして――。
「昨晩から姿を消しました」
瞬間、俺は息が止まるほどの衝撃を受けた。
そこからのことは覚えていない。
次に気がついた時には、真っ暗で冷たい石造りの壁で出来た部屋で、俺は転がっていたのだ。
