雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました

 

 ◇


「神琴様! 息をきちんと吸ってください! 大丈夫、大丈夫ですよ! すぐに良くなりますからね!!」

「はぁ……、は……」


 ばあやが叫ぶように言い、幼い俺の手を固く握りしめる。意識は朦朧(もうろう)とし、発熱のせいか呼吸もままならない。

 物心がついた頃から発作的に起きる謎の症状。それが起きる度に、俺は何度も死の恐怖を感じた。
 いつだってばあやは側について俺を励まし、必ず治ると言ってくれる。けれど決して医者を連れて来ることはなく、ひたすら発作の波が鎮まるまで俺を(なだ)めるだけだった。


『そなたのその病。下手に外に出て他の者達に知られると面倒だ。外に出ることは決して許さぬ。そなたは妾の跡を継ぎ、この妖狐一族の当主となる者だということ、ゆめゆめ忘れるでないぞ』


 一度だけ、外に出たいとばあやにわがままを言ったことがある。しかし次の日、久方振りに俺の前に現れた葛の葉に、そう釘を刺された。

 当主になど、なりたくもないのに。
 こんな病を好きで患っている訳でもないのに。


「う、ううっ……!」


 どうにもならない悔しさをどこにもぶつけることが出来ないまま、ただ俺は泣くことしか出来なかった。


 ◇


「あのピンク色の髪の女の子は誰?」


 いなり寿司を頬張った口をモゴモゴと動かし、俺は以前から気になっていた存在について、ばあやに聞く。


「あの子は神琴様の〝護衛〟です。まだ幼く未熟ですので、ああやって姿を見せてしまうこともありますが、本来護衛は神琴様の視界には一切入らないようにするものなのですよ」

「ふぅん」


 天井裏から同い年くらいの女の子が、こちらをジッと凝視しているのが見える。その姿は護衛(・・)というよりも、監視(・・)と言った方がしっくりくるのだが。


「あの子もいなり寿司が食べたくて、忍び込んで来たのかと思ったよ」

「ふふ。神琴様はいなり寿司が本当にお好きですね。美味しいですか?」

「うん! ばあやの料理はなんでも美味しいけど、いなり寿司は別格だよ!」


 俺が屋敷に来たばかりの頃から、ばあやがよく作ってくれたのがいなり寿司だった。

 ばあや自身の好物なのだと言って出してくれた油揚げが裏返しになっているそれは、なんとも素朴で優しい味で、俺も一瞬でいなり寿司が好物になってしまった。


「まだまだありますからね。たくさん食べてくださいね」

「うん!」


 パクパクといなり寿司を口に入れながら、いつかあのピンク髪の子とも話せたらいいなと、考えていた。