素直に告げてぎゅっとしがみつけば、九条くんもぎゅっと抱きしめ返してくれる。
私よりずっと高い九条くんの体温を心地いいと感じるようになったのは、いつの頃からだっただろう? そんなに前じゃない筈なのに、随分と遠くに感じた。
穏やかな空気に今なら聞いてもいいかと、思いきって九条くんを見上げ、口を開く。
「……さっき」
「ん?」
「当主に変なこと言われてたでしょ? 〝楽しい時間にも終わりが来る〟とか。あれどういう意味なの?」
「さあ? 葛の葉はああやって相手の不安を煽るのが好きだからね。言うならば、俺に対する当て付け……かな?」
「……?」
なんだそれは、当て付けとか普通息子にすることか?
まぁこんな暗い地下室で、手枷に繋いでおく時点で普通ではないが。九条くんは当主のことを〝義理の母〟って言ってたっけ。仲も良さそうには見えなかったし、九条くんの病のことといい、色々複雑なのだろうか?
まだそんな深いことまで聞く勇気はないけれど、いつか話してくれる時が来るかな? 話してくれるといいなぁ。
そして脳裏を過ぎるのは、当主が残したあの言葉。
『風花に伝えておけ、このままでは終わらんとな』
「……当主が雪女を嫌うのは、なんでなんだろう? 私が雪女だから、朱音ちゃんに妨害を命じたってことなのかな?」
「分からない。義理とはいえ、俺の母親ではあるんだけど、葛の葉のことはほとんど何も知らないんだ。何故あの姿なのかも含めて」
「……そっか」
〝風花〟
当主からその名前が出たことの意味するところはなんだろう?
瞳を閉じれば思い出すのは、繰り返し何度も言われたあの言葉。
『まふゆ、いいこと? あんたが雪女の半妖だってことも、妖力を使えるってことも、ぜ~ったいに誰にも言っちゃダメよ』
生まれてしまった胸騒ぎは、いつまでも消えそうになかった――。