「――――!!」


 指先がちょんと九本の内の一本に触れた途端、九条くんが面白いくらいに飛び上がって、私は驚く。


「えっ!? ごめん! 軽く撫でたつもりだったんだけど、もしかして痛かった!?」

「い、いや……。痛くはないけど、いきなりで驚いたというか……。いいかいまふゆ、妖狐にとって尻尾は……」

「痛くないなら、もう少し触らせて! 私モフモフの生き物大好きなの!!」


 いきなりで驚いたのなら、断っておけば触らせてくれるだろう。
 そう踏んでモフモフボリューミーな九つの尻尾にまっしぐらに突っ込もうとしたら、非情にも九条くんが耳と尻尾を引っ込めて、人間の姿へと戻ってしまった。何故!?


「ひどいっ! モフモフしたかったのにぃぃ!!」

「……ごめん、それは俺がもたないから勘弁して」


 よく分からないが切実な顔で言われて、私は大人しく引き下がるしかなかった。
 くそぅ、絶対どこかでリベンジしてやる。

 固く決意をして、ふっと息をつく。不思議だ。ついさっきまで緊張で張り詰めていたのに、今はこんな風に軽口を言い合ってる。未来のことを考えている。
 そう思った途端、視界がぐるりと回った。


「……っ、」

「わっ、と!! まふゆ!? まさか怪我して!?」

「ち、違うの。なんかホッとしたら、急に力が抜けたっていうか……」


 倒れかけたところを九条くんがすぐに手を伸ばして、まるで抱き寄せられたような体勢で支えられる。九条くんは焦ったように眉を寄せていたが、私が大丈夫だと笑いかければ、ホッとした表情を見せた。


「はぁ……、君は本当に……」


 そうしてそのまま、私の背中をゆっくりと撫でてくれる。

 その高い体温の手のひらが心地よくて。私は九条くんの胸に頬を寄せたまま、静かに目を閉じた。トクントクンと彼の心音を刻む音が聞こえる。
 それがすごく安心するのに、何故だかまた泣きそうになった。


「大丈夫? 地上まで運んで行こうか?」


 私の様子を伺い、九条くんが聞いてくる。
 心配そうに背中を撫でる手は優しくて。いつまでもこうしていたい、なんて思ってしまう。


「大丈夫」


 目を閉じたままポツリと告げる。


「でも、もう少しこうしていたい」