「だったら是非お願いする!」

「分かった。じゃあ明日から朝は俺の部屋に来てね」

 やった! これで明日からは、通学時間を気にせず朝をゆっくりと過ごせる! 

 思わぬ朗報に私は顔を綻ばせて、そしてハタと気づいた。

 
「ん? じゃあ毎朝九条くんの部屋に行くんだし、これからは朝の保健室通いは必要は無くない?」


 私の呟きに、九条くんが「そうだね」と頷く。


「まふゆがいいのなら、これから朝は俺の部屋で妖力を使ってくれると助かる」

「そんなの全然いいよ! じゃあ明日から、ね……」


 そこまで言って、あれ? と私の思考がピタリと止まった。

 もしかして私、かなり大胆なことしてない?
 転移の為とはいえ、毎朝恋人でもない男の子の部屋に通うのって、どうなの? 有りなの??

 止まった思考がまたぐるぐると回り出す。一度気になってしまったら、ソワソワして落ち着かなくなってしまう。
 確かに転移は有り難い。保健室に二人で居るところを誰かに見つかるリスクも消える。

 でも、でも……!?


「まふゆ……?」


 するとそんな私の様子をどう思ったのか、九条くんが不思議そうに首を傾げる。


「嫌なら無理はしなくていいんだよ?」

「い、嫌なんかじゃ……!」


 とっさに言いかけた言葉は、最後まで続かなかった。
 何故ならまだ本性を露わにしている九条くんの白銀の狐耳と九つの尻尾が、寂しげにしゅんと垂れているのを見てしまったからである。


「本当に?」


 耳と尻尾は無意識なのか、当の本人の表情はいつものように涼しげなまま。だけどもしかして私に拒否されたと思って、実は内心落ち込んでいるのだろうか?


「……ふふっ」


 いつもは決して読めない九条くんの思考。
 今だけはほんの少しではあるが知れたような気がして、なんだか胸が温かいものでいっぱいに満たされていく。

 そうして私は誘われるまま、そっと微かに揺れているフサフサの尻尾へと手を伸ばした。