「消えた……?」
突然姿を消した当主に、私は目を丸くして辺りを見回すが、どこにも気配は見当たらない。
すると横に立つ九条くんが「ああ」と声を出した。
「妖狐一族秘伝の妖術だね。一度マーキングした場所には妖術を使って飛べる」
「はっ!?」
なんじゃそのチート!? そんな便利な妖術まで使えるのか、妖狐一族というのはっ!! じゃあその妖術があれば、学校から寮までも一瞬で移動出来るじゃん!
「ん? ということは……」
「もちろん俺も朝は使っている」
「やっぱり!!」
私の視線に九条くんが頷く。
思えば九条くんとは帰りは一緒の時も何度かあったが、朝は同じ寮にも関わらず、一緒に登校したことは一度も無かった。
それは私達の間に在らぬ噂が立たないようにとの配慮だと理解していたが、単に妖術を使って飛んでたからだったのか!!
「じゃあ、いつも私より保健室に来るのが早かったのは、転移してたからなの!?」
「そう。何せ朝は特に体調が最悪だからね。転移で飛ぶ方が体が楽なんだよ」
「あ……」
その言葉で私の勢いは一気に削がれた。
そ、そっか。そういう理由なら、「ズルい!」とか言っちゃいけないな。
すんでのところで言葉を飲み込み、誤魔化すように私は口をモゴモゴと動かす。するとそんな私を見て、九条くんがフッと微笑んだ。
「よければまふゆも、朝は一緒に転移していく?」
「えっ!? 術者しか飛べないんじゃないの!?」
「転移する時に俺に触れていれば、一緒に飛べるよ。どうする?」
まさかの有難い申し出に、私は二つ返事で頷く。