九条くんの言葉にしばし沈黙していた当主が、なんだか物騒なことを言い出した。
 それはまるで、九条くんに何かを確認するような口振りだ。


「元より覚悟はしています。そういうものだということも理解しています」

「………………そうか」


 さっきよりも長い沈黙の後に、ポツリと当主が呟いた。


「……?」


 二人の会話が何を示しているのか、私にはさっぱり分からない。
 でもなんだろう? あまり良くないような、この予感は。後で九条くんになんのことか聞いてみよう。


 ーーザリザリ


 そう考えていると、また草履が地面に擦れる音がする。見れば当主が私達に背を向けて、立ち去ろうとしているところであった。


「葛の葉」

「興がそがれた。妾も忙しいのじゃ、そなたらにこれ以上付き合ってはおれぬ。勝手にするがよい。……精々一日一日を大切にすることじゃな」


 呼び止める九条くんに当主はそう言い残し、小さな影遠ざかって行く。


「ああそうじゃ、ひとつ言い忘れておった」


 しかしその途中、不意に当主がこちらを振り向いた。


「そなた、まふゆと言ったな? 風花(かざはな)に伝えておけ、このままでは終わらんとな」

「え…………」


 当主の言葉に私は石のように固まる。

 どうして妖狐一族の当主がその名前(・・)を……?

 嫌な胸騒ぎに、心臓が早鐘のように鳴り響く。


「中庭に出たら、とっとと帰れ。お仲間とやらも門の前に出すよう暗部共に伝えておく」

「あ……」


 動揺する私をよそに、当主はまた私達に背を向け、そしておもむろに指先をパチンと鳴らした。

 ーーボワッ!

 すると音と共に当主の体は一瞬にして火に包まれ、その姿は跡形もなく消えてしまったのだ。