「ずっと暗闇に囚われていればよいものを。そのいつまでも輝きを失わない金の瞳。……見ているだけで吐き気がする」
忌々しげに言う当主の表情は、九条くんの背に庇われた私からは見えない。……その筈だ。
「――――っ!?」
にも関わらず、まるで彼女に直接睨まれたような感覚が背中を走り、私はゾクリと背筋を強張らせた。
「そなたのせいか」
静かとも言える小さな呟き。しかしその瞬間、ブワッと当主の体から狐耳と九つの尻尾の幻覚が見えたかと思うと、巨大な豪火が現れ一直線に私達へと襲い掛かって来たのだ。
「なっ!?」
とっさに応戦しようと、私は手に氷の妖力を込める。けれどその前に同じくらい……いや、それ以上に巨大な豪火が現れて、当主が出した豪火を一気に呑み込んでいく。
そして二つの豪火が完全に一つになった瞬間、豪火は跡形もなく消え去ってしまった。
「え…………?」
途端にしんと静まり返った室内に戸惑い、今起こったことが理解出来ずに呆然と呟く。
「まふゆ、怪我は無いね」
「あ……」
すると名前を呼ばれたので、そろそろと視線をその声の主へと合わせる。そうして視線がかち合った時、私は九条くんの姿にハッと息を呑んだ。
――美しい白銀の毛並みが輝く狐耳と、同じく白銀に輝く九つある長い尾。
まさかこれが、九条くんの本来の妖狐としての姿?
あの客間で襲ってきた狐面達と違い、人型を保ったまま凛と立つその姿は、白い袴姿も相まって、まるで全身が輝いているかのよう。
彼が本当は神の使いなのだと言われても信じてしまうような、そんな神々しさすら感じる。
「――葛の葉。いくら貴女でも、まふゆを傷つける者は誰であろうと容赦しない」
本来の九尾の妖狐の姿となった九条くんが、ゆっくりと当主の方へ向き直り、射抜くような強い眼差しでそう言った。