「――して神琴(みこと)、そなたどこに行く気じゃ? (わらわ)との話はまだ済んでおらぬのだが?」


 私達の目の前に立つ九条(くじょう)葛の葉(くずのは)は、黒いレースで隠した目線をこちらへと向ける。

 客間で声を聞いた時にも驚いたが、子どものような見た目なのに、老生した話し方が異様に映る。
 それにまさか本当に九条家の当主が、こんな幼い女の子の姿をしているなんて……。社交界に全く出て来ないというのは、彼女のこの姿に起因しているのだろうか?


「――葛の葉」


 驚愕のあまり当主から視線を外せずにいると、九条くんがそんな私の視界を遮るようにして、一歩前へと歩み出た。


貴女(あなた)との話はとうに着いた筈です。俺は学校を辞めないし、貴女の望み通りにもならない。迎えに来てくれた彼女達と今すぐ学校に帰ります」


 キッパリと言い切った九条くんに、当主が不快そうに鼻を鳴らす。


「ふん。育てられた恩を忘れ、そのような口を母に聞くとは。なんとまぁ、親不孝に育ったものじゃ」

「〝母〟ではなく、〝義理の母〟でしょう?」

「え……?」


 思いも寄らない言葉に、つい声が出てしまう。そのまま九条くんの背中を仰ぎ見るが、微かに見える表情からはなんの感情も読み取れなかった。

 義理の母……? 

 じゃあ九条くんは当主の血筋ではないの? あれ、でもみんな九条くんのこと〝嫡男〟って言ってるし、九条くんが九条家の次期当主なのは間違いないんだよね……?

 降って湧いた疑問に頭を悩ませていると、九条くんをジッと見ていた当主が、ポツリと口を開いた。


「……ああ、気に食わない」


 その瞬間ザワリと、彼女のまとう空気が変わる。