「……さて、と。いつまでもここに居たら、じき暗部に見つかるな。早くここから出て、みんなと合流しようか」
「わ、分かったっ!!」
体の変化に戸惑っていると、九条くんに声を掛けられて、私は慌てて頷く。
よく分からないけど、とにかく氷の妖力で冷やしとこう! そう結論づけて、私はありったけの妖力を自分の体にまとわせる。
ーーその時だった。
「……全く。こんなところにまでネズミが入り込むとは」
まるで鈴を転がしたように美しい幼い女の子の声が地下いっぱいに反響し、私の耳に届く。
「!?」
「暗部の連中め、朱音共々使えぬヤツらだ」
えっ、どこから現れたの!?
部屋の入り口から人が入ってきた気配はしなかったのに……!
ーーザリザリ
地面に何かが擦れる音が近づき、石造りの壁に吊るされたランプの微かな灯りが、その音の主を少しずつ照らしていく。
「ーーーーっ!」
そうして暗闇から露わになった人物を見て、私は息を呑んだ。
黒地に赤い曼珠沙華の柄が入った着物を着た、腰まである長い黒髪の、見た目はおよそ10歳くらいの幼い女の子。何故か目元は完全に黒いレースで隠されている。
ーーザリザリ
目元のレースによって視界は遮られているだろうに、草履を履いた彼女の足は淀みない。
そうして私達の目の前まで来た時、その足がピタリと止まって、顔をこちらへと向ける。
「――して神琴、そなたどこに行く気じゃ? 妾との話はまだ済んでおらぬのだが?」
見た目にそぐわない老生した話し方をした女の子は――いや、妖狐一族九条家当主、九条葛の葉は、そう言ってその紅い唇をつり上げた。