「まふゆに呼び捨てにされるのって、なんか慣れないな。……でも、悪くないね」
「――――バカ」
くすりと笑っていつもみたいに軽口を叩く目の前の人物に、ずっと堪えていた涙が自然と溢れた。
「まふゆ」
「…………、っ」
ボロボロと静かに涙を零し続ける私に、九条くんが近づく。さっきした音は、彼を拘束していた手枷が外れた音だったみたいだ。
それに九条くんへありったけの氷の妖力をぶつけたお陰か、あれだけ渦巻いていた火の妖力もすっかり鳴りを潜め、不思議なことに高温に熱せられていた室内も、本来の地下特有の冷たさを取り戻しつつあった。
「まふゆ」
泣いて何も答えられない私に、もう一度九条くんが私の名を呼ぶ。
そうして彼の指に流れ落ちる涙を拭われて、彼の気配を近くに感じた時、もう私は溢れ出す言葉を我慢することなんて出来なかった。
「っとに、バカッ!! 九条くんのバカバカバカッ!!! 急に消えて、心配したんだからぁ!! 絶対いなくならないって約束した癖に!! なのにいなくなって、それで、それで……ううっ!!」
嗚咽して上手く言葉が出て来ない。
詰まりながらひたすらボロボロと泣く私の頬に、九条くんの手がそっと触れた。
「ごめん。俺の迂闊な判断で、また君を悲しませてしまった。どうか泣かないで。まふゆに泣かれるのは、何よりも辛い」
「……っ、」
そう言って頬をつたう涙をまた指で拭われる。その優しい手つきに、また勝手に涙が溢れてしまって、泣かないでと言われたのに、次から次へと新たな涙で溢れてしまう。
「……まさかこんなところまで来てくれるとは思わなかった。一人で来たの?」
なんとか涙を引っ込めようとしながら、私はフルフルと首を横に振る。
「……木綿先生と、雨美くんと、夜鳥くん。それに朱音ちゃんも。みんながここまで来るのを助けてくれたの」
着ている巫女服を見せるように示せば、九条くんが少しだけ驚いたように目を見開いて、しかしすぐに理解したように頷いた。
「そっか朱音も。それに生徒会のみんなには、本当に頭が上がらなくなるな」
大きな借りが出来てしまったと呟く九条くんに、泣き濡れた顔のまま私は少し笑う。
