「あ……」
見間違えようのない白銀の髪。けれどもう一つの彼の特徴である金の瞳は閉じられている。
「九条くん……?」
しかもただ意識を失っているだけではない。彼の手首から伸びるそれが目に入り、私は言葉を失った。
「く、九条く……」
石造りの壁から伸びる、まるで拷問具のような手枷。それが九条くんの両腕に繋げられている。体勢はだらんと項垂れており、服は制服ではなく、神職のような白い袴を着ていた。
「九条くんっ!! うっ……!」
慌てて九条くんに駆け寄ろうとした瞬間、ゴォッと地鳴りのような音を立て、先ほどよりも強い熱波が私を襲う。
氷の妖力でなんとか凌ごうとするが、室内を支配する九条くんの妖力の強さは凄まじく、彼を中心として強烈な火の妖力が部屋中に渦巻いていた。
「っ、……!」
熱い。苦しい。
雪女には最悪の状況だ。
でも、こんなことぐらいで私は九条くんを諦める訳にはいかない……っ!!
「九条くん、起きてっ!!」
近づけないなら起こすまでだ。
私は在らん限りの声を振り絞り、九条くんに向かって叫ぶ。
「九条くんっ、九条くんっ!! お願い、目を覚まして!!」
「…………っ」
すると九条くんが、微かにピクリと反応を示した。
「九条くん!!」
「……」
しかしそれ以上の反応は返してくれない。
この部屋の状況、原因は九条くんの発作によって引き起こされているのだろう。なにせ今日は一度も彼に妖力を使っていない。そうすると、ここまで酷い状態になってしまうのか。症状をどうにか鎮めないと。
「うっ!?」
また九条くんから渦巻く妖力が強さを増した。このままでは九条くんを助けるより先に、私が熱にやられてしまう。
なら、近づく以外で九条くんに妖力を届かせる方法は――――……。
「起きて! 起きてよぉ! 起きろーっ!! 神琴ぉー!!!」
喉が枯れそうなくらい全力で叫んで、その声に乗せた氷の妖力を九条くん目掛けて解き放つ。
するとその瞬間、パキンッ! と何かが壊れる音が私の耳に響いた。