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 ――パタパタパタ

 極力足音を出さないようにしながら、渡り廊下を走る。赤い袴の裾が両足にまとわりついて走り難いが、せっかく朱音ちゃんが貸してくれたのだ。なんとか地下室に辿り着かねば。


「いたぞっ!!」

「!!」


 渡り廊下の反対方向にある庭園から、追手達の声が聞こえたので振り返る。すると制服を着て、私そっくりに変化(へんげ)した朱音ちゃんが走り去るのが見えた。
 さすが妖狐一族。まさか本当に何かに化ける妖術を、この目で見る日が来ようとは。

〝朱音ちゃんが私に化けて追手を撒く〟

 初めは戸惑ったのだが、しかし客間に残り妖狐達に応戦している先生達のことを考えれば、迷っている暇は無かった。


「待てっ!!」


 追手は見事に朱音ちゃんを私と勘違いしているようで、こちらには誰も向かって来ない。
 私と朱音ちゃん。共に半妖同士で、一見すると人間の気配しか感じられないのが功を制したようである。


「……それにしても」


 走りながらポツリと呟いて、手の中の鍵を力一杯握りしめる。ぶっちゃけ私の怒りメーターはもうマックスどころか振り切れていた。

 九条くんのことといい、朱音ちゃんのことといい、どういうつもりなんだあの当主は!! 人を苦しめるのが趣味なのかと、小一時間問い詰めてやりたいっ!! 


「いつかあの当主には落とし前をつけてもらわないと……!」


 そう決意して、まずは最優先の九条くん奪還を目指す。


『地下室は渡り廊下を突き当たった先の中庭。そこの一番大きい松の木の後ろの地面に、地下室への入り口があるの』


 そう教えてくれた朱音ちゃんの言葉を思い出しながら、私は地下室を目指す。すると見えてきた中庭に、一際目立つ大きな松が生えているのが確認出来た。すぐに松に駆け寄って地面を調べる。


「うーん、松の後ろ……。あ、この辺りかな?」


 松の後ろに回って地面の砂や苔を除けると、現れたのは石で作られた蓋。その蓋を開けてみれば、人ひとりが通れる大きさの階段が下へと続いていた。


「こ、ここが地下室への隠し通路……」


 ジトジトと仄暗い雰囲気に、思わずゴクッと喉が鳴る。しかし今は怖がっている場合ではない。


「~~~~よしっ!!」


 パンっ!! と思い切り自分の両頬を叩き、気合いを入れ直した私は、そろそろと階段に足を乗せた。