「まふゆちゃんが雪女の半妖だって知った時は驚いたけど、まふゆちゃんの妖力によって、並の妖力は効かない神琴様の症状が一時的にとはいえ治ったことはもっと驚いたの。わたしはずっと、あの方が苦しむ姿を最も間近で見てきたから」
「ずっと? そういえば九条くん、症状は5歳の時から始まったって……」
「うん。見ているだけでわたしには何も出来なかったけど、治してあげられたらどんなにいいかって、ずっと思っていたよ」
「朱音ちゃん……」
当時のことを思い出しているのか、悲しみを堪えた様子の朱音ちゃんに、私は胸がぎゅっと苦しくなる。
「まふゆちゃんと出会って、神琴様は変わった。授業に出て、生徒会に参加して、たくさん笑うようになった。わたしはそんなあの方を見るのが嬉しくて、葛の葉様に報告してしまったの。――〝まふゆちゃんの力があれば、神琴様は病を克服出来る〟って」
そこで私の手を包む朱音ちゃんの両手が震え出す。
「その報告の後に、まふゆちゃんの監視と……妨害を葛の葉様に命じられた」
「〝妨害〟?」
「まふゆちゃんは不思議に思わなかった? ここ数ヶ月で起きたトラブルには必ず黒い妖力が付きまとっていたことを」
「それって……」
真っ先に思い出されるのは、文化祭の準備をしていた時、九条くんの親衛隊に校舎裏に呼び出されたあれだ。途中まで普通に話していたのに、黒い妖力をまとった途端に彼女たちが豹変したことは記憶に新しい。
「それこそが葛の葉様が興味を持たれた、わたしだけの力。この黒い妖力には人の感情を操る力がある。わたしは彼女達を使って、まふゆちゃんを襲わせた。……それから文化祭で喫茶店に来ていたお客さんも」
そこで朱音ちゃんが私の両手から手を離し、右手を私に掲げて見せる。
するとその白く細っそりとした柔らかな手から、見覚えのある黒い妖力が噴き出すようにして現れた。
「…………っ!」
まさか九条くんのことのみならず、何から何まで朱音ちゃんを中心にして繋がっていたなんて。
なんて言っていいのか分からず、私はただただ呆然と朱音ちゃんを見つめる。
「……わたしはたくさんの人を傷つけて、何よりもまふゆちゃんを傷つけてしまった。本当にごめんなさい。もうこんなことしかわたしには出来ないけど、どうかこれを受け取って」
「え……」
そう言って朱音ちゃんにそっと渡されたのは、何かの小さな鍵。私はまじまじとその鍵を見つめる。
「これは……?」
「屋敷にある地下室の鍵。神琴様は今そこに閉じ込められているの」
「!?」
ハッと思わず朱音ちゃんの顔を見れば、彼女はいつものようにふんわりと微笑んだ。
