「ここはボク達に任せて、雪守ちゃんは行って! 戦闘は妖怪の本分だからね!」

「雪守は九条様を探せ! 屋敷のどっかにいるのは間違いねぇんだ!」

「頼みました、雪守さん!」


 みんなに促され、私も頷いて叫ぶ。


 「分かった! みんな絶対に無事でいてね! そして九条くんも含めて早く帰ろう! 学校に!!」


 そのまま客間を出て駆け出せば、後ろから激しい爆発音が響き、不安で押し潰されそうになる。
 しかしみんながくれたチャンスだ。無駄にする訳にはいかない! 早く、早く九条くんを見つけないと……!!


「……ふん、あやつめ(・・・・)。裏切ったか」


 客間を出る瞬間、鈴を転がすような声で紡がれたその言葉が、爆発音に混じって妙にハッキリと聞こえた。


 ◇


「いたぞっ!! 捕まえろ!!」

「ひぇっ!?」


 バタバタと、獣姿となった狐面達が追って来る。
 どうやら客間にいた狐面以外にもまだいたらしく、私はひたすら妖狐達に捕まらないよう逃げ惑っていた。
 

「もぉーっ! しつこいっ!!」


 寝殿造(しんでんづくり)のだだっ広い屋敷は、まるで迷路のようで。走って走って、とにかく走って。
 しかし目の前の渡り廊下の角を曲がろうとしたところで、突然何かにものすごい力で引っ張られた。


「〜〜〜〜!?」


 何!? やめてよ! 私はここで捕まる訳にはいかないんだから!!

 全力で抵抗するが、しかし相手の方が力は上らしく、結局私は勢いよくどこかの部屋へと押し込められてしまう。
 これはまずいと焦って、なんとか腕を掴む手を振り解いて逃げようとするが、そんな私の耳によく聞き慣れた声が届いた。


わたしだよ(・・・・・)、まふゆちゃん」

「――――え」


 ふわふわとした優しい声。その声に誘われるまま、私は振り返ってその声の主に視線を合わせれる。
 すると視界に入ったのは、見慣れたふわふわのピンクの髪にチョコレート色の瞳。

 私が大好きな女の子。


「朱音ちゃん……」


 狐面達と同じ巫女装束をまとった朱音ちゃんが、私の腕を掴んで静かに微笑んでいた。