「待ってください。私は……いえ、僕は九条くんが自分の意思で退学をするつもりだとは、到底思っておりません」
木綿先生が、御簾の向こう側の存在を真っ直ぐに見つめて話す。
「彼が日ノ本高校へ入学を決めたことは、失礼ですが九条家と学園の関係上、並大抵の決意ではなかった筈です。であれば退学など彼自身が考える筈がない。だからこそ知りたいのです、貴女は九条くんをどうなさるおつもりなのですか?」
「先生……」
今までで、これほど木綿先生が頼もしく見えたことがあっただろうか?
〝生徒を守るのが教師の務め〟なんて茶化して言ってたけど、今の言葉から木綿先生の本気が伝わって、不覚にもじーんとしてしまう。
しかしそんな私の感動とは裏腹に、ご当主は不快そうに鼻を鳴らした。
「黙って聞いておれば、ペラペラとよく回る口じゃのぉ。あやつの決意など、妾には関係の無いことじゃ。そもそもたかが教師がどの立場で物を申しておる? 妾は神琴の親ぞ? 親が子をどうしようが、妾の自由であろう」
はあ!? 今なんつった、この当主! 聞き捨てならないことを言ったぞ! たかが教師って、親だから子をどうしようが自由って……! とんだモンぺで毒親じゃないかっ!!
九条くんがなんでこんな立派なお屋敷に住んでいたのに寮を選んだのか、理由が分かった気がした。
しかも木綿先生の質問にはぐらかして答えないところを見ると、この当主が九条くんに対して何をしでかすか、分かったもんじゃない!
だったらもう、私だって黙っていられない!!
「すみません、ご当主様! 私は九条くんのクラスメイトで、同じ生徒会の雪守まふゆと申します! 九条くんのことでひとつ言いたいことがあるので、聞いてください!!」
「ゆ、雪守さん!?」
いきなり喧嘩腰で当主に話しかけたので、木綿先生が慌てたように私を呼ぶ。雨美くんと夜鳥くんもギョッとして「おいっ」と腕を掴まれるが、私はここで止まる気はなかった。
「ほほっ、〝雪守〟? そうかあの女と瓜二つの顔。そなたが……」
「…………?」
あの女??
何故か楽しげな笑い声を出す当主に、私は訝しんで御簾の先を見つめる。
「よい、申してみよ。そなたから見て、神琴がどのように映っているのか興味がある」
「え……?」
意外にも聞く姿勢を取ってくれることに、内心戸惑う。もっと強烈な返しを想定して応戦する気でいたのだが、なんだか勢いが削がれてしまう。
とはいえせっかく許可はもらったのだ。おずおずと私は話し出した。
