突然(つづみ)を叩く音が聞こえたかと思うと、ボッと部屋に火の玉が出現する。
 それはひとつではなく、ふたつ、みっつ、次から次へと出現し、あっという間に私達をぐるりと囲んだのだ。


「おいっ!?」

「これは……、狐火!?」

「ヘタに動かないでください! 様子が変です!」


 慌てる私達をよそに、その火の玉はジワジワと形を変え始め、それはやがて狐面を被った巫女装束の女性達へと姿を変えていく。


「……っ」


 その光景に私は言葉を発することも出来ず、身を固くすれば、現れた女性達が高らかに声を上げた。


主様(あるじさま)のおなーりー」

「おなーりー」


 女性達の口々に発する言葉に合わせて、鼓の音も激しくなり、そして――。


「我がせがれ(・・・)に用があると申すのは、そなたたちか?」


 ――御簾の向こう側。

 聞こえたのは鈴を転がすように美しい、幼い少女のような声。しかし、その老生した言葉遣いにはまるで幼さを感じず、むしろ威圧感すら感じる。


「〝せがれ〟って……」


 まさか九条くんのこと?

 突然現れた狐面の女性達に囲まれ、事態が飲み込めずに呆然と呟けば、幼い少女と思しき声の主は小さく笑い声を出す。


「そうじゃな、少々唐突過ぎたか。まずは挨拶(あいさつ)をしておこう。(わらわ)は九条神琴の〝母〟で、妖狐一族当主、九条(くじょう)葛の葉(くずのは)。以後見知りおきを願おう」


 そう言って、御簾の奥から微かに見える小さな影が揺らめいた。