「雨美くん、夜鳥くん。私、貴族の作法ってよく分からないし、もしご当主様に何か失礼なことしそうになったら言ってね!」
やはりここは餅は餅屋に。頼もしいことに、私には雨美くんと夜鳥くんという生粋の貴族が同行しているのだ。彼らならばきっと、余裕な澄まし顔をしているに違いな……。
「お、おう! しゃーねーな雪守は! オレらが貴族の作法ってヤツを見せてやるよ! なっ、水輝!!」
「も、もちろん! ご当主様への対応は、ボク達に任せて、雪守ちゃんは話を聞いているだけでいいからね!!」
「う、うん……」
頼もしい言葉と裏腹に、私は見てしまった。ガチガチという効果音が聞こえてきそうな程に緊張した二人の顔を。ええっ!? 大丈夫か、貴族コンビ!? 一抹の不安が脳裏をよぎる。
「あ、そうだ! 木綿先生もさっきみたいな頼もしい対応、期待していますからねっ!」
よぎった不安を解消するように、私は先ほど大人らしい対応を見せた木綿先生を振り返り、そう言った。……が、
「…………」
「え……、先生? せんせーい??」
顔の前で手を振っても無反応。あ、ダメだ、白目剥いてる。さっきは頼もしいと思ったのに、一転してコレだ。
「はぁ……」
こんな調子で大丈夫なんだろうか?
すごい不安になってきた……。
◇
「どうぞお進みください」
狐面の女性に案内されて関所っぽい門を通り抜ければ、遥か遠くに寝殿造のお屋敷が見えた。一瞬自分の遠近感が狂ったのかと思ったが、やっぱりめちゃくちゃ遠くに屋敷があるのは間違いない。
えっ!? 敷地広過ぎない!? 門から屋敷の距離がこんなに遠いとか、生活に不便じゃないの!? しかも脇に見えてる庭園の池の方が、私の実家より広そうなんですけど!!?
ひたすら屋敷に向かって歩きながら、私は物珍しさから見るもの全てに反応していた。しかし一本道を延々と歩かされていれば、いい加減それも飽きてくる。そうしてすっかりゲンナリした頃、ようやく屋敷に辿り着いたのだった。
「履き物はこちらへ。くれぐれも私から離れませぬよう。はぐれれば何が起きても保証しかねます」
なにそれ怖い。淡々と言うのがまた恐怖を誘う。さすがによそ様の家で失踪事件なんて洒落にならないので、私達は大人しく狐面の女性に従い、彼女の後をついて行く。
「こちらでお待ちください」
それからたいした時間も掛からず、広めの客間と思しき部屋へと通される。関所と屋敷の間もこれくらい短くしてほしいものだ。
静かに襖を閉めた狐面の女性が去っていくのを見送って、人数分置かれている分厚い座布団にそれぞれ座る。
